図書館ごくらく日記

図書館に関するいくつかのトピックス

広域利用

 「広域利用」とは、公立図書館が行政地域の枠をこえて、他の自治体の人びとにもサービスを提供することです。多くのばあい、複数の自治体が協定などを結んで実施しますが、このサービスが普及するにつれて、協定などを度外視した「一方的宣言」が目立つようになっています。

 

  また、かつては隣接する自治体の住民へのサービスにとどまっていたものが、県内全域や国内全住民へのサービスにまで枠を広げる動きも見られます。広域利用の定義に当てはまるかどうか定かではありませんが、ある自治体内に「通勤・通学」している他の自治体の人に貸出サービスをする公立図書館は、図書館が普及している国はもちろん、「すでに日本でも一般的」と言えるほどに多くなっています。

 

協定の締結などによる広域利用

 私が2016年から17年にかけて全国の公立図書館のウェブサイトを調べた段階で、協定の締結などによる図書館の広域利用は、北海道から鹿児島までの16の都道府県で実施されていました。いくつかの特徴的な例をご紹介しましょう。

 

 北海道には5つの広域利用システムがあります。

 たとえば、西いぶり広域図書館(情報システム)は、登別・室蘭・伊達の3市の図書館が2012年1月から「あたかもひとつの市の図書館のように完全に相互共通利用できるようにしたもの」で、内容は、①書誌・蔵書データの統合、②資料番号の一元化、③利用者カードの互換性の確立、④利用者情報の共有、⑤3市間の定期的な物流、などです。住民は3市共通の図書館カードを使い、どの図書館からでも本を借りることができ、最寄りの図書館で返却することができます。

 北見地域の図書館の広域利用は北見市と6町による協力で、自分の自治体で作った図書館カードを地域内の他の市や町で貸出手続きなどに使うことができます。

 

青森県には、「県内全ての市町村の図書館や公民館図書室等を利用」できる青森県内図書館共通利用券というものがあり、「居住もしくは通勤・通学する市町村の図書館・公民館等で作れます。」(青森県立図書館のウェブサイト)

 ところが、上十三・十和田湖広域定住自立圏内の9市町村(十和田市三沢市野辺地町七戸町六戸町横浜町、東北町、六ヶ所村、おいらせ町)の住民は、9市町村すべての図書館を青森県内図書館共通利用券なしで利用することができるようになっています。9つの自治体が2014年6月から「図書館相互促進事業」を始めたからです。

 

 長野県には3つの広域利用システムがあります。

 エコール(上田地域図書館情報ネットワーク)は2市2町1村の図書館(室)からなり、共通の利用者カードを発行し、「9ヶ所の公共図書館(室)のほか、長野大学附属図書館や上田創造館内の上田図書館分室など、エコール構成施設の12ヶ所ではどこでも図書の予約ができ、どこでも借りることができ、どこへでも返すことができ」るほか、「レファレンスサービス(調べもののお手伝い)、複写サービスがご利用できます」ということです。

 

 すわズラー(諏訪広域図書館ネットワーク)は3市2町1村の図書館(室)からなり、それらの自治体の住民は、どの図書館をも利用できます。利用カーはをどこの図書館でも使え、借りた本は(一部の分館を除いて)どこの図書館で返却してもよいことになっています。

 南信州図書館ネットワークは1市2町1村の図書館からなり、ここでも「貸出カード1枚で、ネットワーク内のどこの図書館でも本を借りることができます。」

 

 広島県の特徴は、県内市町のすべてと山口県の2市4町を含む広島広域都市圏の広域利用制度が広島県内全域をほぼ網羅していることです。ただ、図書館の中には、その広域都市圏のすべての住民が利用できるとは書いていないところもあります。

 この制度のばあい、共通利用カードはなく、他の自治体の図書館を利用したい人は、そこでカードを作ってもらう必要があります。

 

 福岡県には4つの図書館広域利用システムがあります。中でも福岡市とその周辺地域からなる福岡都市圏では、19の市と町の図書館が広域利用を行っています。そのほかの3つは、北筑後地区7市町村、久留米広域圏5市1町、有明圏域3市の図書館が参加するものです。

 

全国の誰にでも貸出をする図書館

 日本国内に住んでいる人なら誰にでも本を貸し出すという図書館は少なくとも17館ありました。

 県立図書館は、岐阜県立、静岡県立、愛知県、佐賀県立の4館です。岐阜県立図書館は「県外の方、外国の方でも貸出証がつくれます」し、愛知県図書館のウェブサイトには、利用カードの発行に「住所や年齢の制限はありません」とあり、県外在住者も対象であることが「よくある質問」に書かれています。

 

 書き方が「国内に居住する方」とか「全国どなたでも」などと明確でないけれども、県外の人にも貸出をするのではないかと思われる図書館が上記のほかに14館あります。岐阜県に5館、愛知県に3館などです。

 また、遠野市立図書館(岩手県)は「遠野市民はもちろん帰省者や旅行者など、どなたでも利用者登録をすることで資料の貸出が可能です」としています。

 

都道府県内の全住民に貸出をする図書館

 東京都では、新宿区立と渋谷区立がその例ですが、港区立と台東区立は23区内在住者に貸出をしています。

 県内全域の住民に貸出をする例が多い県は、愛知県(名古屋市図書館など7自治体の図書館)、奈良県天理市立図書館など9自治体の図書館)、香川県観音寺市立図書館など9自治体の図書館)などです。

 

他の府県の全住民に貸出をする図書館

 石川県立図書館では、「東海北陸地区の県民(三重・愛知・岐阜・福井・富山県の人)」も利用登録をして貸出を受けることができます。これと似た例は大阪府立図書館で、こちらは近畿圏(兵庫・京都・和歌山・奈良・滋賀・三重の6府県)に住んでいる人にも利用カードを発行(ということは貸出も可)しています。

 愛知県の犬山市立図書館は、愛知県・岐阜県内に居住する人に図書館カードを発行しています。

 

10以上の自治体の住民へ貸出をする図書館

 協定などを結ばずに他の自治体の住民へ貸出をする図書館はかなりの数にのぼります。ここでは10以上の他自治体の住民へ貸出をしている図書館をご紹介しましょう。図書館名につづく=の後は、サービス対象とする他自治体の数です。

 利府町図書館(宮城県)=仙台都市圏13市町村

 いわき市立図書館(福島県)=隣接8市町村および茨城県の3市

 佐野市立図書館(栃木県)=両毛広域都市圏の10市町(ほとんどが群馬県

 足利市立図書館(栃木県)=10市町(多くは群馬県

 桐生市立図書館(群馬県)=県内11市町(在勤・在学者も可)

 みどり市立図書館(群馬県)=11市町(うち2市は栃木県)

 相模原市立図書館(神奈川県)=県内9市町村と都の2市、他県の1市

 福知山市立図書館(京都府)=府内11市町と兵庫県の5市町

 河内長野市立図書館(大阪府)=府内9市2町1村と隣接2県の2市

 

珍しい条件をつけている図書館

 美里町宮城県)の子牛田図書館・南郷図書館では、近隣4自治体の住民が1所帯に1人だけ利用登録できるとしています。寒河江(さがえ)市立図書館(山形県)も同じように、西村山郡の住民が1所帯につき1枚の利用カードを作ることができます。

 熱海市立図書館(静岡県)では、「熱海市に別荘等を所有している方及びその家族」も利用者カードを作ることができます。土地柄でしょうかね。

 沖縄市立図書館(沖縄県)では、「図書館未設置の近隣市町村在住の方へ利用者カードを発行」しています。