団体貸出とは
公立図書館が、地域の学校、自治会などの組織、福祉施設や職場、グループや団体などに資料を貸し出すことを、団体貸出といいます。団体の実態は、数人のグループから児童・生徒が数百人の学校まで、さまざまです。ですから、このばあいの《団体》は、《人の集まり、人の集まるところ》を便宜的にひとくくりする言葉として捉えるのが適当だと思います。
『日本の図書館:統計と名簿 2020』によりますと、全国の市区立と町村立の図書館に登録している団体の数は、合わせて184,126+26,566=210,692です。
それらの団体が2019年度に貸出を受けた冊(点)数は全体でおよそ2430万冊(点)でした。それに対して同じ年度に個人が貸出を受けた冊(点)数は6億3763万冊(点)で、両方を足しますと6億6193万冊(点)になります。よって、団体貸出冊(点)数が公立図書館の貸出全体に占める割合は、3.67%にしか過ぎません。(1)
では、構成員が何人以上なら団体として認められているでしょうか。
ウェブサイトに団体貸出の情報があった520館(520の自治体の図書館。以下同)中、団体の構成員の数に触れている図書館は41館(7.9%)で、ほとんどの図書館は団体の人数の下限についてウェブサイトで触れていませんでした。その中では「5人以上」がもっとも多く、次に多いのは「10人以上」で、41館のほとんどが5人以上か10人以上のどちらかです。(2)
構成員の数を最も少なく「2名以上」としているのは高槻市立図書館(大阪府)です。その「よくある質問」には、「読書活動の推進を目的とし、市内に本拠地や活動の範囲があり、構成員が2名以上で、団体の代表者が高槻市に在住・在勤・在学する場合を団体と扱い、団体貸出券を発行します」とあります。また、川越市立図書館(埼玉県)では「常時2名以上が所属し、定期的に活動を行っている団体」に限るという条件をつけています。
稲城(いなぎ)市立図書館(東京都)のばあいは、「市内で活動をしている市民団体」「5人以上の構成員」「構成員の半数以上が稲城市民であること」を条件に団体貸出をしています。ほぼ同じような条件の東久留米市立図書館(東京都)のばあいは、「市内在住の構成員が1名以上いること」としています。
世帯数を条件に加える図書館もあります。
大阪市立図書館の「資料の団体貸出に関する内規」には、「団体の構成人数は2世帯以上で5名以上とする」とあり、新居浜市立図書館(愛媛県)の「利用案内」では、団体貸出の対象とする団体を「新居浜市で活動している、3世帯(10人以上)のグループ」としています。これは「3世帯以上で10人以上のグループ」という意味だと思われます。
貸出を受けている団体の種類
団体貸出の対象を具体的に数多く列挙している代表的な例は次のとおりです。
①小山(おやま)市立図書館(栃木県)の「利用できる団体」は、
各学校・学級単位、幼稚園、保育園、保育所、福祉施設、家庭文庫、子ども会、読書会、読み聞かせの会、学童保育会などとなっています。子どもをおもなターゲットとしていることがうかがえる例ですね。
②足立区立図書館(東京都)は、「団体とは」で団体貸出の対象を次の6種類に分けています。
1.官公署
2.学校、PTA、幼稚園
3.保育所、児童施設、老人施設、病院、学童保育室、学校図書館ボランティア、児童サービスボランティアその他これに類似する団体
4.社会教育団体
5.会社、企業、NPO法人
6.町会、地域・家庭文庫及び読書会等で図書資料を使用する団体
③新潟市立図書館の「利用できる団体」も幅広く網を張っています。
PTA、ひまわりクラブ、幼稚園・保育園、自治会、町内会、地域の茶の間、子ども食堂、福祉施設、ボランティアグループ、会社、商店、NPO法人、サークル等 (3)
ここには学校への団体貸出が入っていませんけれど、学校用のとてもくわしい案内が別に用意されています。
④岡山市立図書館の「対象団体」には、20人以上の利用者があることを原則とするという条件つきで、次の10例が示されています。
地域文庫、家庭文庫、町内会、婦人会、子ども会、学校、幼稚園、保育園、各PTA、児童館など。
これらを参考にして、貸出を受けている団体を区分しますと、おおむね次のようになります。念のために申し添えますと、各図書館は以下のAからIまでのすべてを団体貸出の対象としているとは限りません。
A. 教育機関
幼稚園・小学校・中学校・高等学校・特別支援学校
(今回のウェブサイト調査では高等学校の例示が13件あり、そのほとんどが「小中高校」という表現でした。)
B. 子どものための福祉施設
未就学児のための施設(保育所・子育て支援センター・託児所など)
学童のための施設(児童館・子ども園・学童保育所・学童クラブなど)
C. 文庫活動団体
地域文庫・家庭文庫・貸出文庫・子ども文庫など
D. 読書関係の団体
読書会・おはなし会・実演や読み聞かせのグループなど
E. 一般のグループやサークル
PTA・地域のサークルなど
F. 地域住民の組織
自治会・町(内)会など
G. 自治体の各種施設
学習センター・交流センター・文化センター・公民館など
H. 一般の福祉施設と医療施設
福祉施設・病院・高齢者施設
(今回のウェブサイト調査では病院の例示が12件ありました。)
I. 地域の職場
企業(会社・事業所)・官公署など
他の自治体の団体への貸出
当ブログでは、公立図書館が他の自治体の個々の住民に貸出をする「広域利用」についてご紹介したことがあります(20180424)。その後(きちんと調べてはいませんけれど)、その傾向がいっそう強まっているのではないかと感じています。では、他の自治体の団体に資料を貸し出す例はどうでしょうか。
見つかったのは次の4市2町の図書館でした。
①登別市立図書館(北海道)
「登別市・室蘭市・伊達市(西いぶり3市)の学校(クラス単位も可)・幼稚園・保育所・事業所・機関又は団体・グループ」が団体貸出の利用対象。
②東浦町中央図書館(愛知県)
「町外(知多地域の市町、刈谷市及び高浜市)で読書活動する団体、施設」へも団体貸出。
「大阪市内及び八尾市内に所在する学校、幼稚園、保育所、病院、福祉施設、社会教育施設。及びこれに類する施設」が利用できる団体。
「里庄町内、浅口市内の学校・各団体・事業所などが、利用者として登録できます。」
「主たる活動場所が今治市・上島{かみじま}町であり、市内在住者がいる団体に限ります。」
「団体貸出とは、佐賀市立図書館が佐賀中部広域連合の市町内※に活動場所があるお話しサークル、子ども文庫、読書会、公民館、福祉施設、保育園、幼稚園、学校などのグループ(団体)を対象に長期間、まとまった数の資料の貸出を行うサービスです。
団体貸出の実施率が高い都道府県
団体貸出をしている公立図書館(市区町村立図書館)の割合を都道府県別に見ますと、次のような結果になりました。これは、ウェブサイトに団体貸出にかんする情報が載っていた割合の高かった都府県です。
①大阪府=69.8% ②東京都=69.4% ③滋賀県=57.9%
④愛知県=52.8% ⑤埼玉県=52.4% ⑥千葉県=50.0%
⑦宮崎県=48.0% ⑧広島県=47.6% ⑨山口県=47.4%
⑩新潟県=46.7%
貸し出す資料
ほとんどの図書館で、図書(本)が団体貸出の中心になっています。それ以外の資料で多いのは、おもに学校や読書支援活動グループに貸し出す紙芝居、視聴覚資料(CDやDVDなど)、大型絵本などです。
団体貸出を特徴づけるのは、読み聞かせや実演の行事に使う用品・機材の貸出です。それらを貸し出すことを確認できた20館ほどの中で、よく例示されているのはパネルシアターとエプロンシアターの用品でした。具体的な物品をもっとも多く挙げていたのは糸島市立図書館(福岡県)で、次のとおりです。
シアターセット(パネル、パネル台、ブラックライト)
人形劇セット(舞台、舞台スクリーン、舞台袖用衝立、舞台用ポール入れ、幕、黒子頭巾、黒手袋)
影絵スクリーン(影絵スクリーン用三脚、オーバーヘッドプロジェクター)
紙芝居舞台
貸出冊(点)数
1団体に貸し出す冊数・点数の上限をウェブサイトに記載していた図書館は、全国で344館でした。割合の多い順に並べますと、次のようになります。
100冊(点)=38.1% 50冊(点)=32.8%
200冊(点)=12.5% 300冊(点)=7.3%
500冊(点)=4.4% 1000冊(点)=2.6%
100冊(点)と50冊(点)という上限で70%以上になりますね。冊数・点数を無制限とする図書館は全国で8館(限度を記載している図書館の2.3%)ありました。なお、貸出冊(点)数の上限を団体によって変えている図書館は少なくありません。
珍しい例を少しご紹介しましょう。
大崎市図書館(宮城県)の貸出冊数は、個人への貸出が「読める冊数」(2週間以内)で、団体への貸出が「使う冊数」(1か月以内)となっています。
東大和市立図書館(東京都)の団体への貸出冊数は「本・雑誌・紙芝居」が「999冊、3ヶ月」で、「CD・カセットテープ」が「12点、1ヶ月」。珍しいのは999冊という貸出冊数です。一方、CDやDVDのような視聴覚資料はどこの図書館でも貸出点数の上限が低く、12点まで貸す例はむしろ少ないように思われます。
5館からなる宇都宮市立図書館(栃木県)では、ひとつの団体が3館から合わせて500冊まで、残りの2館から100冊、200冊まで借りることができます。合計で800冊が上限ですね。
3館からなる八代(やつしろ)市立図書館(熊本県)の団体貸出では、「1団体が3館からそれぞれ300冊まで、2ヶ月以内」の条件で借りることができます。このばあいは合計900冊が上限になります。
団体の構成員の人数をもとに貸出冊数とその上限を決めている図書館があります。
東京都の江東区立図書館(1人当り5冊)、東久留米市立図書館(構成員数×3冊、上限100冊)
静岡県の静岡市立図書館(構成員数に5を乗じて得た冊数、上限300冊)
愛知県の知多市立図書館(構成員の3倍まで、上限300冊)、東海市立図書館(構成員の3倍以内、上限100点)などです。
貸出期間
公立図書館の個人への貸出は2週間や3週間が多いのに対して、団体への貸出は(図書にかんする限り)より長期間になるのがふつうです。今回の団体貸出の調査では、次のような結果になりました。%は学校以外の一般の団体貸出期間を例示している355館中の割合です。
1か月まで=65.4% 2か月まで=17.2%
3か月まで=11.0% 6か月まで=2.5%
団体貸出のばあい、貸出先や資料の種類によって貸出期間を変えている例が多く、たとえば、学校への貸出期間はそれ以外の団体よりも概して長く、CDやDVDの貸出は図書とくらべて概して短くなっています。
なお、貸出冊数と貸出期間については、「ご相談ください」などと添え書きしている図書館が15館ほどあります。決まりはあるけれども要望を聞いて融通をきかせるばあいがあるのではないかと思われます。
参照文献と注
(1)『日本の図書館:統計と名簿 2020』(日本図書館協会、2021年)
(2)団体貸出にかんする調査の概要は次のとおり。
実施時期は2020年~2022年、調査対象は全国の市区町村立図書館、調査方法は各図書館のウェブサイト検索、団体貸出について何らかの情報を得られた図書館は520館(520市区町村の図書館)。
(3)新潟市立図書館の貸出対象団体にある「ひまわりクラブ」は「放課後児童クラブ」のこと。「地域の茶の間」は市が推し進める地域の交流拠点のことで、実際の名称はさまざま。