図書館ごくらく日記

図書館に関するいくつかのトピックス

奇妙な訃報

 2020年4月10日に前川恒雄さんが亡くなって数日後、新聞にその訃報が載りました。すぐさま金沢に住む私の姉が電話をかけてきて、「あんなに偉い人だとは知らなかったわ。あんたもショックやろ」ということでした。姉が「あんなに偉い人」と言いましたのは、彼女の目にした『朝日新聞』と地方2紙の訃報が恒雄さんの業績を的確に表現していたからです。

 京都に住んでいる私も新聞数紙の訃報を確認し、つづけて図書館関係団体のウェブサイトを探しましたところ、日本図書館協会図書館情報学橘会が訃報を掲載していました。

 ところが、このふたつの訃報には、新聞各紙の訃報とは大きな違いがありました。新聞各紙が的確に伝えた前川恒雄さんの《肝心かなめの業績》に、これらの訃報が触れていない点です。書かれていることに誤りはないとしても、いちばん大事なことが全くと言ってよいほど書かれていません。前者(日本図書館協会)の訃報は、前川恒雄さんと協会との関係だけにしぼっていて、後者(図書館情報学橘会)の訃報は職歴だけにしぼっているのです。

 では、前川恒雄さんの《肝心かなめの業績》とは何だったのでしょうか。それを丁寧に説明すれば1冊の本ができあがります。《肝心かなめの業績》がたくさんあるからです。

 図書館界やマスコミでしばしば使われた前川さんの枕詞には、《先駆者》や《リーダー》があり、図書館を見下していた感のある佐野眞一氏は、『だれが本を殺すのか』の中で前川さんを《カリスマ》と呼んでいます。前川さんの死去から2週間ほど経ったとき、「天声人語」の筆者は「戦後日本の図書館のありようを大転換してくれた先人」と表現しています。言い得て妙ですね。

 その大転換のきっかけをよく理解できるのが、前川恒雄著『移動図書館ひまわり号』という本で、これは図書館関係という枠をこえた、日本の名著と言ってよいドキュメンタリーです。まだお読みでない方には、強くお勧めしたいと思います。