図書館ごくらく日記

図書館に関するいくつかのトピックス

大学図書館などとの連携・協力

大学図書館の地域住民への開放

 現在、日本の大学・短大・高専の図書館の多くが地域住民に開放されています。その傾向は1990年代後半から加速しました。

 私が2003年に4年制大学の図書館の住民への開放状況をウェブサイトによって調べたところ、全国689の大学・大学院図書館の中で、(a)地域住民に閲覧・複写・貸出を認めている図書館は228館、率にして33.1%でした。(b)地域住民が閲覧・複写のサービスだけを受けられる図書館は152館、率にして22.1%で、(a)(b)を合わせると半数を超えていました。

とくに、両者の合計が100%だったのは岩手県秋田県鳥取県愛媛県佐賀県沖縄県で、これらの県はいずれも大学(図書館)数が少ないという特徴がありました。

 2008年ごろに同じ調査をしたところ、全国の大学図書館の66%が閲覧や複写の市民サービスを行い、およそ42%が貸出までのサービスを実施するようになっていて、高等専門学校の図書館はほぼ100%が市民に開放されていました。

 ただし、貸出サービスをうけるばあい、500円から3,000円くらいまでの年間登録料を徴収する大学図書館が少なからずあり、現在でもその傾向がつづいています。

調査時点からほぼ10年が経っている現在、市民への開放の数値はより大きくなっていると思われます。中でも、福井県、愛知県と和歌山県大学図書館等が地域住民への開放に積極的な印象を受けました。

 以下は、2016~2017年に公立図書館のウェブサイトを調べた結果(例示する個別図書館については、2018年12月上旬にもう一度確認しました)ですが、多くの大学図書館が公立図書館とは無関係に地域住民の利用を認めていますので、次のようなばあいは省略しています。

 ①公立図書館とは無関係に、大学図書館が地域住民に開放されている。

 ②公立図書館の利用者カードをもっていれば大学図書館が利用を認める。

 ③公立図書館と大学図書館が協定を結んではいるが、ウェブサイトだけでは公立図書館の果たす役割が明確でない。

 ④住民が公立図書館を通じて大学図書館の本を借りることができても、送料を負担しなければならない。

 

公立図書館 ⇔ 大学図書館 = 互いに貸出・返却の窓口

一般市民が公立図書館を介さずに大学図書館の本を自分で借りることができれば、それが最善のように思われるかもしれませんが、必ずしもそうではありません。公立図書館が住まいの近くにあって大学図書館が遠い人にとって、(急がなければ)公立と大学とがお互いの窓口となるこの方式は、ありがたいはずです。いくつかの実例をご紹介しましょう。

いわき市福島県)の「いわき図書館サービスネットワーク(通称「I-TOSS(アイトス)」)の参加館は、いわき市立図書館、いわき明星大学図書館、東日本国際大学いわき短期大学昌平図書館、福島工業高等専門学校図書館です。

いわき市立図書館の巡回車が、毎週、市内の大学・高専図書館を回ります。予約図書の受け渡しや返却窓口として、お使いいただけます。また、図書館を通して、大学・高専図書館の資料を無料で借り受けることができます。」

茨城県民は茨城大学図書館の本を茨城県立図書館に取り寄せてもらって借りることができます。

 ③神奈川県立の図書館(2館)は県内の複数の大学図書館と相互貸借の協力をしています。県立図書館が取り寄せた本を県民が自宅で利用できるのは、横浜国立・東京工業・総合研究大学院・桐蔭横浜・県立保健福祉の各大学図書館、県民が自宅ではなく県立の図書館で利用できるのは、神奈川・鶴見の2大学図書館です。また、「県立の図書館貸出カードをお持ちの方は、専修大学図書館で貸出カードの発行が可能」です。

 ④「平成20年12月17日(水)、{福井}県内高等教育機関福井県立大学福井工業大学仁愛大学仁愛女子短期大学敦賀短期大学福井医療短期大学福井工業高等専門学校計7校)と福井県立図書館は、図書館活動に関する協定を締結し、幅広い連携・協力を行うこととしました。」

内容は、(a)「県内高等教育機関の蔵書と県内公共図書館の蔵書約547万冊をまとめて検索できるようになります。」(b)「県立図書館の既存の物流システムを利用した図書館間相互貸借等の実施。」これにより、県民は学術専門書約143万冊を身近な図書館を通じて利用でき、「学生・教職員は県立図書館の蔵書を教育機関の各附属図書館を通じて利用可能と」なります。(c)「各図書館の所蔵資料を活用したレファレンス協力等、その他図書館事業の連携協力。」などです。

この相互協力は2009年1月から始まりました。

 ⑤広島市立図書館は、広島市立大学附属図書館および広島大学図書館と連携・協力し、利用者の求めに応じて両大学から資料を借り出しています。方法は、住民が市立図書館の窓口で申し込み、同じ窓口で借りるというものです。

 ⑥山陽小野田市立図書館(山口県)の利用者は、「山口東京理科大の図書館においても、山陽小野田市立図書館の本が受け取れます。また、山口東京理科大の本も借りることができます。」

 ⑦山口大学山口県立大学の教職員・学生は、山口県立図書館で借りた本を自分の所属する大学の図書館で返却することができます。県立図書館と両大学図書館との相互協力協定によります。

 ⑧鳴門市立図書館(徳島県)は2007年3月に鳴門教育大学附属図書館と相互連携・協力に関する覚書を交わし、両者で次のようなサービスをしています。

 「鳴門教育大学附属図書館で借りられた資料を鳴門市立図書館で返却できます。

鳴門市立図書館で借りられた資料を鳴門教育大学附属図書館で返却できます。

鳴門教育大学附属図書館の資料を取り寄せて鳴門市立図書館で貸出することができます。(ただし、貸出ができる資料に限ります。)」

 

公立図書館 ⇔ 大学図書館 = 集荷・配送をする巡回車

 公立図書館と大学図書館は、同じ館種どうしはもちろん、公立・大学間(異館種間)でも資料の貸し借りをしています。これを図書館間相互貸借といいますが、日本では異館種間の相互貸借が活発だとは言えません。

 相互貸借には資料の移動がつきもので、方法として郵送、宅配便のほか、おもに都道府県立図書館がひきうけている巡回車による集荷・配送があります。この車は搬送車、連絡車、連絡協力車、支援協力車などとも名づけられていて、図書などの資料のほかに文書類を運んだり、図書館員を運んだりもします。車は都道府県内の公立図書館を中心にくまなく巡回するため、いくつかに分けた地域・コースを週に1回ていど走るのがふつうです。

 以下はその例で、=記号の右は巡回される大学等です。

福島県立図書館(協力車) = 福島大学福島県立医科大学

②埼玉県立図書館(連絡車) = 埼玉大学

群馬県立図書館(市町村支援協力車) = 大学図書館

④千葉県立図書館(3館)(協力車) =5大学の図書館(平成27年度「要覧」)

⑤「新潟大学附属図書館と新潟県立図書館・新潟市立図書館・佐渡市立図書館との連携事業により、各館との間で巡回便(めぐるくん・わたるくん)を運行し、相互に図書の貸借を行っています。

新潟大学の在学生・教職員が}新潟県立図書館・新潟市立図書館・佐渡市立図書館で所蔵する図書を利用したいときは、無料で取り寄せることができます。」

富山県立図書館(連絡車) = 富山県立大学富山大学高岡法科大学などの図書館

京都府立図書館(連絡協力車) = 府内の7大学図書館

 ⑧鳥取県立図書館(資料搬送車) = 鳥取大学など3大学の図書館

 ⑨島根県立図書館は、 週3回、宅配等により、貸出資料の配送・回収を往復県費負担で実施しています。また、県内大学、高専、高校、特別支援学校の図書館との、貸出資料の搬送も実施しています。

⑩「平成22年3月23日、香川大学図書館と香川県立図書館の相互協力に関する協定が締結されました。」「この協定により、県立図書館と香川大学図書館の間に、平成22年4月から、週1回、資料搬送便が運行されることになり、県立図書館を通して、送料の負担なく、香川大学図書館が所蔵する人文科学、社会科学、ライフサイエンス、ものづくりといった 幅広い分野の学術専門書の取寄せができるようになりました。」

 このサービスは、県立図書館を利用する人なら誰でも申し込むことができ、送料は無料です。

 

公立図書館 + 大学図書館 = 目録の横断検索システム

 都道府県ごとに公立図書館と大学図書館とが協力し、お互いの目録を横断検索(一括検索)できるシステムは、図書館利用者にとってありがたいものです。

 公立図書館と大学図書館は、2018年12月現在、少なくとも37の都府県で両者の資料を同時に検索できる横断検索システムを運用しています。全体として、大学数の多い都道府県では大学側の参加がとても少なく、公立図書館と大学図書館の横断検索システムの運用が低調です。

 逆の傾向をもつ例もあります。たとえば「福島県内図書館蔵書横断検索」には、8大学、2短大、1高専、1大学学部の図書館が参加していますが、公立図書館は県立のほか3市立に過ぎません。また、「鹿児島県内図書館横断検索」には、6大学、4短大、1高専など県内にあるすべての高等教育機関の図書館と、県立と43市町村中の29市町の図書館が参加しています。

 公立図書館だけで目録の横断検索を実現しているのは、北海道、宮城県茨城県新潟県、愛知県、大分県です。

 

 珍しい例としては、次のようなものがあります。

 ①宮城県には公立図書館だけの「宮城県内図書館総合目録」がありますが、そのほかに「学都仙台オンライン目録」という仙台市内11大学と宮城県立図書館、仙台市図書館、仙台文学館3館の総合目録が運用されています。

 ②山梨県立図書館のウェブサイトからは、県内の公立図書館と大学図書館が別々に横断検索できるようになっています。県内大学図書館の横断検索は「山梨大学附属図書館提供」と注記されています。

 ③名古屋市図書館(愛知県)のウェブサイトによりますと、「「まるはち横断検索」とは、名古屋市内の公共図書館専門図書館大学図書館の資料をひとまとめに検索することができるものです。名古屋市民の方、学生の方、および図書館利用者の方向けに、幅広く調査研究に役立つことを目的としています。」

これによって、名古屋市図書館と愛知県立図書館、12大学の図書館、9専門図書館が一括検索できます。

 

レファレンス協同データベース事業 = 全館種

 レファレンス協同データベースとは、「国立国会図書館が全国の図書館等と協同で構築している、調べ物のためのデータベース」のことで、目的は次の2つです。

①全国のすべての種類の図書館が、利用者の調べものの援助をするレファレンスサービスに役立てること。

②図書館の利用者自身が、調べものをするときに参考にすること。

 

この事業に参加しているのは、主導している国立国会図書館のほか、公共・大学・学校・専門の図書館です。2018年12月現在の参加館総数は789館で、内訳は次のとおりです。

国立国会図書館=13館(本館1と支部図書館12)

公共図書館=461館(都道府県立から村立まで)

大学図書館=190館(短期大学と高等専門学校の図書館を含む)

学校図書館=58館(団体やグループを含む)

専門図書館=58館(企業や法人、博物館、地方議会などの図書室)

そのほかに「アーカイブズ」という括りで9つの(公)文書館や資料室が参加しています。

 

 データベースには次の4種類があります。

 ①レファレンス事例=図書館へ寄せられた質問とその回答の記録集

 ②調べ方マニュアル=特定のテーマやトピックの調べ方

 ③特別コレクション=個別参加館の特殊な資料群の内容や規模など

 ④参加館プロファイル=個別参加館の特色や沿革など

 

 日本では、館種の異なる図書館が連携・協力してひとつの事業を成し遂げる例がきわめてまれでしたが、このレファレンス協同データベース事業は、そのまれな一例でしょう。

 データベースと言えば、かなり多くの公立図書館が地域資料(郷土資料)を電子化して公開しています。これについては、あらためてこのブログでご紹介する予定です。

 

都道府県単位の図書館協会

 少なくとも12の都県で公立図書館と大学図書館を含む協会が組織されています。中には学校図書館を含むもの、個人単位で構成するもの、施設・個人・団体で構成するものなど、組織のあり方はさまざまです。

 会議の記録や協会報を見るかぎり、ほとんどが総会や研修会の開催と協会報の発行ていどの活動しかしていません。ほかには数か所で実態調査や図書館員の研究助成が行われています。

 12の都県以外のほとんどは、公立図書館だけの協(議)会と大学図書館だけの協(議)会が併存しています。

 

その他の珍しい試み

 静岡産業大学磐田図書館のウェブサイトには、「磐田市立図書館の本を貸出します」というお知らせがあり、「磐田市立図書館の本を学生さんと図書館員で選びました」ということで、選んだ127冊の本のリストを添えています。これは珍しいですね。

 

 松江市立図書館(島根県)の移動図書館車「だんだん号」は、島根大学松江キャンパスをも巡回しています。利用登録をしていない学生・教職員はその場で利用登録して本を借りることができます。返却は大学の付属図書館まで。2018年度の巡回は、長期休業中を除いて月に1回です。移動図書館が大学を巡回場所(ステーション)とするのは、とても珍しいことです。