図書館ごくらく日記

図書館に関するいくつかのトピックス

レイナルド・アレナス(Arenas, Reinaldo, 1943-1990)

 アレナスはキューバの作家で、日本では『めくるめく世界』や『夜明け前のセレスティーノ』のほか、自伝『夜になるまえに』の翻訳などが出版されています。『めくるめく世界』によって文名が高まりますが、カストロ政権下で厳しい弾圧を受け、1980年にアメリカへ亡命しました。ホモセクシュアルだったためにエイズが悪化し、1990年に服毒自殺しました。

 彼はその自伝の中で国立図書館に勤めるようになったいきさつを書いています。1963年にキューバ国立図書館が主催するコンクールに自作の短編で応募したところ、翌日、図書館から電話で呼び出しを受けました。館長のマリア・テレサフレイレ・デ・アンドラーデという老婦人はアレナスの才能を見込んで、国立農地改革局で働いていた彼を国立図書館に配置換えしてくれたのです。彼は居心地のよいこの図書館で1963年から少なくとも1967年まで働いていたことになります。

 アレナスの「仕事は利用者が請求した本を探すことだったが、本を読む時間がいつもあった。それに、あらゆる職場に宿直が義務づけられており、それをしないといけない夜には適当にどんな本でも選びうるという、魔法のような楽しみを満喫することができた。書架のあいだを歩いていると一冊一冊の本から光がきらめき、自分には独自の神秘があると約束しているかのように見えた。」

 パリで教育を受け、キューバ国立図書館を創設した館長マリア・テレサは「思慮深い人で、ぼくたちを五時間しか働かせなかった。仕事は一時からだったが、ぼくはいつも朝の八時から出かけ、誰もいない閲覧室を利用してものを書いた。そこで『夜明けのセレスティーノ』を書いた。その巨大な図書館を充たしている本をほとんど全部読んだ。」

 アレナスの自伝『夜になるまえに』は、セックスに関する記述をとても多く含んでいますが、国立図書館内での次のようなとんでもないエピソードもその一つです。

「あるとき図書館で大騒ぎがあった。よく名の知れた二人の女性館員が化粧室で裸になってセックスしている現場を押さえられたのだ。二人はマリア・テレサのところに連れていかれたが、マリア・テレサは、これはわたしが関知するところではなくこの人たちのご主人の問題です、この件に関してわたしは何もできません、と言って二人を見逃した。」

参考文献レイナルド・アレナス『夜になるまえに』(国書刊行会1997