この調査について
現在、日本の公立図書館で、どのような資料がよく借りられているかを具体的に調べること。
調査対象
全国95自治体の図書館。
その地区別の内訳は、北海道・東北=14、関東=19、中部=18、近畿=11、中国・四国=19、九州・沖縄=14。
その市区町村別の内訳は、72市、1区、21町、1村。
情報源
情報源は、各図書館がウェブサイトに掲載している「貸出ランキング」と「貸出ベスト」です。そこには、一定期間内の貸出回数が多かった順に、著者・タイトル・出版社などのほかに貸出回数が示されていて、図書館によっては、その資料の所蔵冊数(点数)や貸出可能な状態か否かなどの情報を加えているばあいもあります。
ほかにも「ベストリーダー」という貸出ランキングを示す情報源がありますけれど、できるだけ同じ条件でランキングを調べるため、今回は情報源として採用しませんでした。
同じ条件と言いますのは、次の3点です。
①すべての資料種別を対象としていること。
②貸出期間を「3か月」に設定できること。
③貸出回数の上位10件だけをカウントの対象にすること。
また、できるだけ全国各地をまんべんなく調べられるように努めましけれど、上記①と②が妨げとなって、必ずしも目論見どおりにはいきませんでした。
調査時期
2020年3月13日から20日まで。
資料について
(1)貸出ベストテンにランクインしていた資料の傾向
ベストテン入りした資料の総数は95館×10=950となるはずのところ、資料以外をランキングに含めている例が4件あったため、以下の合計は946件となっています。
①児童書=419回(44.3%)
②小説=374回(39.5%)
③雑誌=57回(6.0%)
④視聴覚資料(AV資料)=36回(3.8%)
⑤エッセイ=32回(3.4%)
⑥実用書=28回(3.0%)
いわゆる本が全体の約90%、雑誌と視聴覚資料が合わせて約10%を占めています。
児童書には、絵本、まんが、子ども向けの読み物や図鑑などを含めています。
大人の読む本を小説・エッセイ・実用書などに分けたのは、小説の占める割合を知りたかったからで、各図書館が貸出ランキングで「実用書」と区分している例はありません。その結果、(この調査にかんする限り)図書館で借り出される全資料のおよそ40%が小説だとわかりました。
(2)特徴のある貸出ベストテンの例
⦿いろいろな種類の資料がベストテンを構成していた図書館
上記(1)では、資料を6種類に分けています。そのうちの5種類によってベストテンが構成されていたのは次の3館です。
気仙沼市図書館(宮城県)=小説4+エッセイ1+児童書1+雑誌2+AV資料2
松田町図書館(神奈川県)=小説3+エッセイ3+実用書2+児童書1+AV資料1
隠岐の島町図書館(島根県)=小説1+エッセイ1+実用書1+児童書6+AV資料1
4種類の資料によってベストテンが構成されていたのは次の21館でした。
高山市図書館(岐阜県) 川越町あいあいセンター図書室(三重県)
美咲町立図書館(岡山県) 安来(やすぎ)市立図書館(島根県)
⦿児童書が貸出ベストテンの1位から10位を独占した図書館は以下の8館
⦿児童書が貸出ベストテン中で9点を占めた図書館は以下の11館
大山(だいせん)町立図書館(鳥取県) 鏡野町立図書館(岡山県)
日田市立図書館(大分県)
⦿小説が貸出ベストテンの1位から10位を独占した図書館は以下の6館
豊中市立図書館(大阪府) 猪名川(いながわ)町立図書館(兵庫県)
⦿小説が貸出ベストテン中で9点を占めた図書館は以下の3館
⦿雑誌が貸出ベストテンの1位から10位を独占した図書館は次の1館
柳井(やない)市立柳井図書館(山口県)
⦿雑誌が貸出ベストテンの過半数を占めた図書館は以下の2館
時津(とぎつ)町立時津図書館(長崎県)6点
⦿視聴覚資料がベストテンの過半数を占めた図書館は次の1館
(3)貸出ベストテンに10回以上ランクインした本
下記の6人による9著作のうち、7著作が小説、エッセイと絵本が各1著作です。小説がよく借りられていたことが分かりますね。
14回 瀬尾まいこ『そして、バトンは渡された』(文藝春秋、2018年)
かがくい・ひろし『だるまさんが』(ブロンズ新社、2010年)
11回 今村夏子『むらさきのスカートの女』(朝日新聞出版、2019年)
(4)貸出ランキングでベストテン入りした雑誌は20誌
その20誌には女性が関心・興味をもつ雑誌が多く、貸し出されたのはすべて最近(2019年11月から2020年2月まで)に刊行された号でした。3回以上ベストテン入りしたのは次の9誌です。
6回=『アニメージュ』(徳間書店のアニメ雑誌)(1図書館で6回)
5回=『ESSE』(扶桑社の女性向け生活情報誌)
『クロワッサン』(マガジンハウスの生活情報誌)
『すてきにハンドメイド』(NHKの番組テキスト)
3回=『オレンジページ』(オレンジページの生活情報誌)(1図書館で3回)
『トライアングル』(山口県のタウン情報誌)(1図書館で3回)
『ゆうゆう』(主婦の友社の女性向け情報誌)
(5)貸出ランキングでベストテン入りしたエッセイ
10人の著者の14著作がベストテン入りしました。10人の著者のうち7人が女性、3人が男性です。ベストテン入りの回数が多かったのは次の4点です。
4回=樹木希林『樹木希林120の遺言』(宝島社、2019年)
矢部太郎『大家さんと僕』(新潮社、2019年)
3回=佐藤愛子『九十歳。何がめでたい』(小学館、2016年)
貸出ランキングでベストテン入りした本の著者・作者
ベストテン入りした著者・作者の総数は218人でした。共著のばあいは代表者だけをカウントし、団体名らしい著者名も1人と数えた結果です。情報源に著者名が記載されていないばあいは、あえて調べませんでした。
(1)ベストテンに5回以上ランクインした著者は37人
74回=東野圭吾
63回=原ゆたか
58回=トロル
33回=恩田陸
21回=宮部みゆき
20回=島田ゆか
19回=かがくい・ひろし
14回=瀬尾まいこ
12回=斉藤洋 ヨシタケ・シンスケ
11回=今村夏子 ゴムドリco.
10回=辻村深月
9回=いわい・としお わかやま・けん
8回=中山七里
6回=相原和則 安西水丸 ぎぼ・りつこ
畠中恵 村田紗耶香 エウゲーニー・M. ラチョフ
5回=エリック=カール 佐野洋子 せな・けいこ
平山和子 洪在徹(ほん・じぇちょる) 又吉直樹
(2)1著作だけでベストテンに10回以上ランクインした著者とその著書
瀬尾まいこ=『そして、バトンは渡された』だけで14回
今村夏子=『むらさきのスカートの女』だけで11回
(3)著作5点以上がベストテンにランクインした著者
13人中、10人が児童書の著者・作者です。以下の表記は、著者名=ベストテン入りの回数(その対象となった作品点数)となっています。
東野圭吾=74回(11点)
トロル=58回(おしりたんていシリーズ17点)
宮部みゆき=21回(5点。『この世の春』上・下を1点として)
島田ゆか=20回(バムとケロのシリーズ5点)
藤子・F・不二夫=16回(ドラえもんシリーズ14点)
斉藤洋=12回(おばけずかんシリーズの6点)
ヨシタケ・シンスケ=12回(7点)
ゴムドリco. =11回(かがくるbookシリーズの9点)
佐伯泰英=7回(居眠り磐音シリーズの4点と新・酔いどれ小藤次の1点)
相原和則=6回(ポケモンをさがせシリーズの5点)
ぎぼ・りつこ=6回(しずくちゃん・シリーズの6点)
洪在徹=5回(サバイバル・シリーズの5点)
調査によって分かったこと
(1)よく借りられた本の著者のほとんどが現在活躍中の日本人で、外国人の著者は(DVDやCDなどの視聴覚資料を除いて)4人しかいませんでした。いずれも児童書の著者(エリック=カール、ゴムドリco.、洪在徹、エウゲーニー・M. ラチョフ)です。
(2)よく借りられた一般書(小説・エッセイ・実用書)の初版の発行年は、ほとんど2015年以降でした。
(3)それに対して、よく借りられた児童書の発行年は、1970年代にさかのぼります。
たとえば、1970年代には『ドラえもん』、『はらぺこあおむし』、『100万回生きたねこ』、『11ぴきのねこ』が発行され、1980年代には『しろくまちゃんのホットケーキ』、『くだもの』などが登場して、今も読み継がれている作品が少なくありません。
(4)図書館ごとの貸出ランキングに着目しますと、やはり児童書と小説のランクインの多さが目立ちますけれど、いろいろの種類の資料がまんべんなく借りられている図書館も少なからずあって、全体としては、それなりに多様であることが分かります。
(5)「貸出ランキング」「貸出ベスト」「ベストリーダー」は、多くのばあい「予約ランキング」とセットになって公立図書館のウェブサイトに掲載されていて、よく読まれている本や人気のある著者のガイドの役割を果たしていると思われます。