図書館ごくらく日記

図書館に関するいくつかのトピックス

図書館へ本を寄贈する人たち(4)図書館から図書館への寄贈

 図書館は本の寄贈を受けるだけでなく、さまざまな機会に他の図書館へ本の寄贈をしてきました。

 その中で、最近まで多かったのは、図書館が自館の刊行物(年報、要覧、報告書、紀要、蔵書目録など)を他館へ寄贈するというパターンでした。けれども、それらの刊行物をインターネット上に掲載する傾向が強まった今では、物理的な形の寄贈が以前とくらべてかなり少なくなっています。

 

パターン1:蔵書のまるごと寄贈(または移管)

 明治から大正にかけて日本各地に多くの私立図書館ができ、やがてそれらが寄贈や移管というかたちで町立・市立の図書館となりました。時代が昭和に下ってからもわずかながら例があります。

 1939年にまだ20代だった浪江虔(なみえ・けん)という人がたった一人で創設した私立南多摩農村図書館の蔵書の一部が、私立鶴川図書館と名称を変えるなどの曲折をへて、1990年に町田市立鶴川駅前図書館に収められました。この人は10代の中ごろに日曜学校図書館をつくったほど図書館に強い関心をもち、全国の農村に図書館をひろげる理想を追いながら、晩年には長く日本図書館協会の常務理事としても活躍しました。

 

 もうひとつ例を挙げますと、2018年に高知県立図書館と高知市民図書館が一緒になってオープンしたオーテピア高知図書館には、「塩見文庫」というコーナー(13,000冊)があります。この文庫のもとになったのが、高知県選出の国会議員だった塩見俊二・和子夫妻が1966年(高知市)に設立した私立図書館です。

 ふたりは、毎月、合わせて3万円を本の購入に充て、後には有志の協力も得て私立「塩見文庫」を開設したのでした。その後、財団法人による小津図書館となり、1991年に財団法人の解散にともなって土地、建物、蔵書が県に寄贈されたというわけです。

 なお、このオーテピア高知図書館は、県立図書館と市立市民図書館とがオーテピアという建物に共存し、共通の利用カードで利用できるようになっている、とても珍しい例です。

 

 これも最近の例ですが、2007年に豪日交流基金オーストラリア図書館が閉館したとき、その蔵書がまるごと追手門(おうてもん)学院大学図書館大阪府茨木市)へ寄贈されました。

 豪日交流基金は、オーストラリアと日本の交流を促進する目的でオーストラリア政府によって1976年に設置された機関で、現在は外務貿易省の傘下で活動しています。この機関が管理・運営してきたのが在日大使館内にあったオーストラリア図書館でした。そこではオーストラリアにかんする本や雑誌に加えて、視聴覚資料や電子資料も利用することができました。

 この図書館が2007年の5月いっぱいで閉館するとき、蔵書の寄贈先として選ばれたのが追手門学院大学図書館でした。この大学にはオーストラリア研究所があるなど、40年にわたってオーストラリア研究に取り組んできた歴史があったからです。同年10月に寄贈された蔵書は、約15,000点(洋書10,000冊、和書3,000冊、視聴覚資料ほか2,000点)で、追手門大学図書館の3階にある「オーストラリアライブラリー」で利用に供されています。

 

 最後は、図書館からではなく、図書館をもたなかった学会から、図書館へ蔵書をまるごと寄贈した例です。

 1948年に創立された日本考古学協会(一般社団法人)は、全国の会員や歴史関係の学会、自治体の教育委員会、歴史博物館などから図書や調査報告類の寄贈を受けてきて、その資料は万単位に膨れ上がりました。けれども、協会として図書館(室)を持ったことがなく、2000年からはそれらを埼玉県内の貸倉庫に保管していました。ために、貴重な資料をほとんど利用できないだけでなく、保管料もかさみます。

 そこで、公的機関に一括で寄贈することになり、最終的に決まった寄贈先が2013年に公募に応募した奈良大学図書館でした。奈良大学には文化財学科があり、図書館のほかに博物館をも備えていて、適格だと判断されたものです。

 同館の森垣優輝氏によりますと、「所蔵資料の1割強は一般社団法人日本考古学協会から受贈した資料群である。登録冊数は6万1,799冊(図書4万4,312冊、逐次刊行物1万7,487冊)で、発掘調査報告書がこのうち3万6,515冊あり、中にはガリ版刷りで流通量が少なく貴重な報告書も含まれている。2014年末から当初3年計画で受入を開始し、約半年間の延長を経て2017年10月に受入を完了した」ということです。(「奈良大学図書館における日本考古学協会図書の受贈事業について」カレントアウェアネス、no. 339, 20190320)

 なお、日本考古学協会は、その後に寄贈を受けた資料も奈良大学図書館に寄贈しつづけています。

 

パターン2:不要資料を活用してくれる図書館への寄贈

 ジェトロ・ビジネスライブラリーは、日本貿易振興機構ジェトロ独立行政法人)が運営する貿易関係専門の図書館(東京・大阪)でしたが、2018年2月いっぱいで閉館することになりました。その理由は、「長年にわたり、海外ビジネスに関する書籍資料やデータベースによる情報提供を行って」きたけれども「資料の電子化やインターネットの普及による技術進歩など情勢の変化などを踏まえ、書籍資料の閲覧・利用による情報提供業務を終了する」ことになったからでした。(ジェトロのウェブサイト、20200206)

 閉館にともなって所蔵資料を寄贈するとの情報(国立国会図書館のカレントアウェアネス専門図書館協議会のウェブサイト)がありましたので、その寄贈先や寄贈冊数の概数をアジア経済研究所図書館にメールで問い合わせましたところ、次のような内容の回答を得ました。(20200204)

 ①寄贈情報については、機構として公開していない。

 ②所蔵する資料のバックナンバーは、従来より長年定期的に寄贈先を募って、寄贈を行ってきた。

 ③ビジネスライブラリ―が所蔵していた資料のうち、ジェトロ出版物と途上国関連資料は、アジア経済研究所図書館が引き継いでいる。

 というわけで、どれほどの図書館等がどれほどの量の寄贈を受け入れたかは分かりませんけれど、このばあいは、ひとつの図書館が複数の図書館に本や継続出版物を寄贈した例になるようです。

 

 次は私立大学図書館協会の寄贈資料搬送事業です。

 私立大学図書館協会は1938年に創立された4年制私立大学の全国的な協力組織で、現在は私立大学のおよそ9割、524校が加盟しています。協会全体、東地区と西地区に分けた部会、西地区を5区分した地区協議会がさまざまな活動をしている中で、加盟図書館の寄贈資料搬送事業は、協会の委員会のひとつである国際図書館協力委員会が担当して、1995年から取り組んでいるものです。その方法は次のとおりです。

 ①国際図書館協力委員会は、年に2回、加盟図書館による海外の大学図書館等への資料寄贈の申込みを受けつける。

 ②加盟図書館はあらかじめ寄贈先と打合せをした上で、資料の内容、数量を添えて申し込む。

 ③委員会が申込みを審査し、問題がなければ寄贈先への費用を協会として負担する。

 この協会には国際図書館協力基金という特別会計があり、毎年、原則1口5万円で寄付金を集め、国際図書館協力委員会のいくつかの事業のために使っています。その事業のひとつが寄贈資料搬送事業というわけです。

 ここ数年の寄贈先は、台湾、ラトビアザンビアスリランカ、ガーナ、ミャンマーキルギスなど、アジア、アフリカの大学(図書館)と国立図書館でした。冊数は40冊ほどから500冊、600冊以上など、さまざまです。

 なお、2018年度に協力基金を支援した企業には、大学図書館とかかわりのあるカルチャージャパン、紀伊国屋書店、キャリアパワー、極東書店、図書館流通センターナカバヤシ、日本ファイリング、丸善雄松堂が挙がっています。(同協会のウェブサイト、20200130)

 この私立大学図書館協会のばあいは、加盟している大学図書館が、不要になった資料を海外の図書館に寄贈している例ということになります。

 

パターン3:自国の理解促進のための寄贈

 このパターンは、当ブログでご紹介した前回の例と趣旨は同じですけれど、図書館から図書館への寄贈という点で異なりますので、ここでご紹介することにしました。

 中国では、上海図書館が海外の図書館に新刊本を寄贈して、中国の文化や歴史を理解してもらおうとしています。

 「上海の窓」(上海ウィンドウ)と名づけられたそのプロジェクトは2003年に始まりました。カレントアウェアネス(CA-E、20070523)の紹介記事によりますと、内容は、「通常、上海図書館と対象館とが3年の契約を結び、1年目には300〜500冊程度の図書が、2年目、3年目には各100冊の図書が上海図書館から寄贈される。寄贈を受けた館では、「上海ウィンドウ」と書かれたプレートとともに図書を専用閲覧室または専用書架に開架すること、また、寄贈を受けたことを周知し、図書を適切に保存、整理、貸出することが求められている」ということです。

 2018年10月末までに、このプロジェクトは72か国の168機関に12万冊の本を寄贈しました。日本で寄贈を受けたのは、大阪府立中央、長崎県立、富山県立、沖縄県立などの図書館です。

 ほぼ同じ目的で、中国国家図書館も「中国の窓」(中国ウィンドウ)の名のもとに2006年から外国の国立図書館大学図書館に本を寄贈してきました。日本では国立国会図書館東京大学京都大学の附属図書館、アジア経済研究所などが寄贈を受けています。

 

 次に、韓国国立中央図書館の「韓国資料室(Window on Korea)」をご紹介します。

 同館のウェブサイトには「協力活動」というページがあり、その中の「国際協力」のひとつWindow on Korea (WOK)によって、2007年に始まったこの事業の概要を知ることができます。(20200210)

 目的は、韓国の歴史と文化について、理解と関心を促進すること。

 プロジェクト名は、「韓国の窓」(Window on Korea)。

 ターゲットとする機関は、海外の図書館。

 支援するのは、設備と韓国資料のコスト。

 設備は、コンピュータ、机と椅子、サイン板など。

 設置する資料は、最初の年に1館あたり1,500~3,000冊、つづく5年間は年に200冊ずつで合計1,000冊{総計は2,500~4,000冊}の韓国関連図書。

 ということで、2019年末までに韓国国立中央図書館は25か国の29館に資料の寄贈をつづけてきました。寄贈先の地域はアフリカと南米をのぞいて世界各地に及んでいて、図書館の種類は大学図書館が3分の2、国立図書館が3分の1となっています。

 このプロジェクトの特徴は、寄贈資料の中に映像資料や録音資料が含まれていることです。