図書館ごくらく日記

図書館に関するいくつかのトピックス

図書館へ本を寄贈する人たち(3)国際的な文化交流や理解促進のための寄贈

 日本では、国際的な文化交流や海外の理解を促進する手立てのひとつとして、さまざまな機関・団体が外国の図書館や大学、研究機関などに本を寄贈しています。

 国際交流基金のプレスリリース(20191008)によりますと、2018年度調査(暫定)で、日本語教育を実施している国は142か国、日本語教育機関は約18,600、教師は約77,100人、学習者は約385万人に上っているそうです。ということは、今後10年も経てば、外国で日本語を学んだ人が今より1,000万人以上増えているかも知れません。

 日本から海外への寄贈本は日本語で書かれたものとは限りませんけれど、より多くの人たちが日本に興味をもち、日本語を理解してくれるのは、ありがたく喜ばしいことだと思いますので、おもな例をいくつかご紹介します。

 

(1)国際交流基金独立行政法人)の「図書寄贈プログラム」

 国際交流基金は1972年10月に外務省所管の特殊法人として設立され、それまで外務省が担当してきた全世界を対象とした幅広い文化交流事業を引き継ぎました。図書寄贈プログラムはそのごく一部分に過ぎません。2003年に現在の独立行政法人となってからも、この事業はつづけられています。そのウェブサイト(202001)によりますと、

 「国際交流基金(ジャパンファウンデーション)図書寄贈プログラムは、海外における日本に関する理解・研究の促進に寄与するために、日本に関する研究・教育を行なう海外の研究・高等教育機関及び公共図書館に、日本関係図書等の寄贈を行なうプログラム」で、図書の送付先は、世界各国の大学とその図書館、日本研究センター、日本研究所、公共図書館などです。

 ただ、同基金の「事業実績」によりますと、多くの国の大学や図書館に少部数ずつ本を寄贈していたものを、2007年ころから「図書寄贈プログラムの寄贈対象を主に日本研究機関に限定する方向で重点化し、大幅に縮小」するとして、2010年代に入って寄贈先が毎年、数機関に減っています。

 

(2)日本財団(公益財団法人)の「現代日本理解促進のための図書寄贈事業」

 日本財団の前身は、1962年に設立された日本船舶振興会(財団法人)で、2011年に公益財団法人となり、それまで通称だった「日本財団」を正式名称としました。この財団がつづけてきた多彩な社会貢献活動のひとつに、海外の個人や団体への本の寄贈があります。

 同財団のウェブサイト(20200128)によりますと、内容は次のとおりです。

 このプログラムを始めたのは2008年で、目的は海外のオピニオンリーダーや日本研究の専門家でない知識層に現代日本の実情を理解してもらうこととしていますけれど、実態としては、「海外の個人や公共図書館、文化団体などを中心に現代日本に関する100冊の書籍を無償で提供するプロジェクトになり、これまでに世界127カ国の967の施設や団体に計6万1,000冊以上の書籍を寄贈している」ということです。

 寄贈する本(すべて英語)の内容は、日本の歴史、政治、文学、芸術、社会、経済などと幅広く、福沢諭吉の『福翁自伝』や新渡戸稲造の『武士道』のような古典を含んでいる一方、スーザン・ネイピアの『現代日本のアニメ』(中公叢書)の英文原著なども入っています。

 

(3)日本科学協会(公益財団法人)の「日中未来共創プロジェクト」

 日本科学協会の前身は1924年大正13年)に設立された財団法人科学知識普及会で、1944年(昭和19年)に日本科学協会と合併して、財団法人日本科学協会となりました。現在の公益財団法人となったのは2012年のことです。

 この協会が実施している日中未来共創プロジェクトのひとつの活動が、中国の大学図書館への本の寄贈です。特徴は、①寄贈先を中国の大学図書館に限定していること、②寄贈する本が、日本の個人、企業、公共機関、団体から協会が寄贈を受けた本(その多くは古書と思われる)であること、③これまでに寄贈した冊数が380万冊を超えて膨大であること、④日本財団の支援をうけていること、などです。

 1999年に始まったこの寄贈事業の実績は、寄贈先の大学が78校、寄贈冊数が約383万冊です。20万冊以上の本を受贈した大学が5校ありますけれど、「中国では500以上の大学に日本語学部があり、日本語を学ぶ学生数も世界最多を誇りますが、図書館では日本に関する図書がまだまだ不足している」(同協会のウェブサイト、20200112)とのことです。

 なお、日本財団の現会長である笹川陽平氏の10年以上前のブログ(笹川陽平ブログ、20060812)には、

「このプログラム{中国の大学への図書寄贈}は、1999年以前はパイロット・プロジェクトとして日本財団が行っていた。」

「最近は、古い図書より出版から10年以内の新しい図書を要望されるようになってきた。」

「そこで、出版社、新聞社に新刊図書の寄贈をお願いしている。」

などとあり、新刊を寄贈してくれた出版社とその冊数のベストテンがリスト化されています。社名だけを列挙しますと、創文社(約26,100冊)、中央公論新社、千倉書房、旺文社、筑摩書房、海竜社、ぎょうせい、丸善出版事業部、三修社、白鳳社(約2,900冊)です。

 

(4)出版文化産業振興財団(一般財団法人、JPIC)の「JAPAN LIBRARY」

 1991年に出版業界(出版社・出版取次会社・印刷会社・書店とその各業種の全国組織)の横断的な非営利団体として設立された出版文化産業振興財団は、30年近くにわたって出版と読書に関するさまざまな活動をつづけています。そのひとつが内閣府に協力して実施している本の寄贈です。

 同財団のウェブサイト(202001)によりますと、2015年に始まったJAPAN LIBRARYというこの事業は、日本のノンフィクションの優れた著作を英訳出版し、海外の大学図書館公共図書館、研究機関などに寄贈するものです。

 2019年末までに出版された56タイトルの分野は、歴史、政治、文化、美術・デザイン、建築、宗教、科学、伝記・自伝など多岐にわたり、これらは50か国、1,000以上の図書館と研究機関に寄贈されました。

 同財団の肥田美代子理事長の2020年の年頭あいさつによりますと、「JPICには、複数の協力事業の申し入れがあります。今後、こうした事業を実現・育成できれば、世界中の読者・研究者に優良出版コンテンツを届け、著者・出版社には出版コンテンツの二次・三次利用による収益還元を図れるものと考えています」ということです。

 また、上記(2)でご紹介した日本財団(公益財団法人)の「現代日本理解促進のための図書寄贈事業」には、この出版文化産業振興財団が事務局として参加しています。

 

(5)日本出版販売(株式会社)などの中国国家図書館への寄贈

 これは、出版取次会社である日本出版販売株式会社(略称:日版)の主導のもと、国内の150の出版社が協力して、中国の国立図書館である中国国家図書館に新刊書を寄贈しつづけている例です。

 始まりは1983年(契約は1982年)で、5年を1期として現在は8期目に入っていますから、40年近くつづいていることになります。方法は次のとおりです。

 ①中国国家図書館が、日本の主要150出版社の出版物から寄贈を受けたい本を選ぶ。

 ②日本からは3か月ごとに本を送付する。

 ③中国国家図書館はそれらを「日本出版物文庫閲覧室」で利用に供する。

 日版の「ニュースリリース」(20170615)によりますと、「これまで日販が出版社の協力のもと、7期35年間にわたって中国国家図書館に寄贈した図書は約31万冊、11億円相当にのぼっています」とのことです。ということは、1年平均1万冊近くを寄贈してきたことになりますね。この事業に付随して、研修生の受入れなどの人事交流も行われています。

 

(6)国際文化フォーラム(公益財団法人、The Japan Forum=TJF)の図書寄贈事業

 1987年に設立された国際文化フォーラムは、2011年4月に公益財団法人に移行し、企業6社(王子製紙講談社大日本印刷凸版印刷日本製紙三菱UFJ銀行)からの出捐金(しゅつえんきん)を運用して財団法人としての事業を展開しています。この財団法人は、児童・青少年の教育と国際的な相互理解をめざすとしていて、その事業のひとつが外国への図書寄贈です。

 『ことばと文化:相互理解をめざして:国際文化フォーラム10周年記念』(財団法人国際文化フォーラム、1997年、非売品、ネット上で閲覧可能)によりますと、設立当初からの「10年間で合計74ヵ国・地域、3,157件、81,529冊の日本関連図書を海外の教育・研究機関、公共図書館などに寄贈しました」ということです。

 2014年度以降の事業報告によりますと、寄贈先は中国が中心となり、日本語科があって日本語学習者の多い大学、寄贈本を提供したのは講談社、冊数は毎年1万冊あまり、というふうに様子が変わってきています。

 

 ほかにも、アメリ国務省の「アメリカンシェルフ・プロジェクト」が日本の大学図書館や公立図書館などに英文の本200冊前後を寄贈している例、アジア図書館ネットワークというNPO法人がアジアの数か国に古書を寄贈している例、などがあります。