図書館ごくらく日記

図書館に関するいくつかのトピックス

図書館へ本を寄贈する人たち(2)珍しいアイディアによる寄贈

(1)福島県立図書館の「県民のくらし応援文庫」

 福島県立図書館は、「県民のくらし応援文庫」と名づけた図書を寄贈してもらう制度を2016年度からつづけています。方法は次のとおりです。(同館のウェブサイト、20200115)

 テーマは、県民の地域づくりや暮らしを応援するためのものにしぼり、「育児活動支援」「健康長寿支援」「まちづくり支援」「防災活動支援」の4つとしています。

 寄贈をお願いするのは個人、企業、団体となっていますが、これまでの実績では企業と団体しか応募していないようです。1口5万円なので、個人は二の足を踏むのかもしれませんね。

 寄贈する本は新品でなければならず、事前に書名や冊数などを図書館と相談し、ばあいによっては図書館から希望リストを提示することになっています。

 寄贈された本は普通の書架に並べるほか、1回に6口以上(30万円以上)の寄付をすれば特設コーナーを設けてもらうこともできます。

 これまでに11の企業と団体が寄贈者となっていて、中で目立つのが毎年20口分の本を寄贈している一般財団法人ふくしま未来研究会です。福島県立図書館の資料費予算は、この制度を採り入れた2016年度で約2340万円なので、その数パーセントに相当する額の本を寄贈してもらえるのは、このアイディアが成功している証しではないかと思われます。

 

(2)神栖市立図書館(茨城県)のボンデリング事業への協力

 図書館は寄贈の申し出のあった本をすべて受け入れられるわけではありません。すでに所蔵している本や収集範囲からはずれる本は、多くのばあい「受け取れません」とお断りせざるをえないからです。この問題を解決する手段のひとつとなっているのが、ボンデリング事業への寄付です。

 ホンデリング事業とは、全国被害者支援ネットワーク(公益社団法人)のウェブサイトによりますと、寄贈本の売却代金を犯罪被害に遭った人とその家族・遺族の支援活動に役立てる事業のことです。各都道府県の被害者支援センター(ほとんどが公益社団法人)がこの事業に協力していて、全国被害者支援ネットワークが2018年度にホンデリングで受け取った寄付(44センター分を含む)は、102,781冊、6,448,750円だったということです。

 公立図書館がこの事業に協力するまれな例のひとつが神栖市立図書館(茨城県)です。同館では、2014年1月の全館ミーティングで「図書館へ寄贈申し出があった図書のうち、図書館で受け入れしない本については、ホンデリングへの協力にあてると決定」しました。2019年12月までに寄付につながった14回の金額が、同館のウェブサイト(20200106)に載せられています。金額は1回の最高額が11,500円余りとさほど大きくはありませんけれど、この仕組みは、寄贈者、図書館、被害者支援センター(=被害者など)の三方良しになっていますね。

 なお、宇治田原町立図書館(京都府)にはボンデリング用の図書回収箱が設置されており、伊丹市立図書館(兵庫県)はボンデリング関係のイベントを開催しています。

 

(3)横浜市による不要本活用のリユース文庫

 横浜市では資源循環局が中心となって家具・食器・本などの再利用を図っています。本のばあい、市内18区のすべての図書館がその活動に組み込まれています。ただし、リユース文庫の設置は図書館だけでなく、区役所、地区センター、資源循環局の事務所などを合わせて50か所ほどにのぼっています。

 資源循環局のウェブサイト(20200111)によりますと、リユース文庫は「家庭で不要になった本をリユース(再使用)することにより、資源の有効活用とごみの減量を図るもの」ということです。方法は次のとおりです。

 ①市民が本をリユース文庫(書架やブックトラック、回収ボックス)に持参する。

 ②それらの本は、欲しい人が10冊を限度として持ち帰ることができるほか、図書館・地区センターの寄贈図書となるばあいもある。

 このリユース文庫は、大都市をあげての取組みという点でユニークな例ですね。横浜市の都築図書館でリユース文庫を始めたのが2011年度、港南図書館のリユース文庫に持ち込まれた本が2018年度で7,500冊以上、などという事実から、このアイディアが成功裡に進行中だと考えてよいと思われます。

 

(4)名古屋市図書館(愛知県)の「なごやほんでキフ倶楽部」

 名古屋市図書館(愛知県)は、2016年度から「なごやほんでキフ倶楽部」と名づけた本または物品の寄贈依頼をつづけています。『名古屋市立図書館年報 平成29年度』や同館のウェブサイトによりますと、実施方法は次のとおりです。

 ①寄贈の意志をもつ個人または法人が、寄贈する本や物品について図書館と相談する。

 ②寄贈者の意向をふまえて、図書館が寄贈候補リストを提案する。

 ③合意した内容の本または物品を寄贈者が購入して図書館に寄贈する。

 ④図書館がそれらを利用者サービスに使用する。

 実績は次のとおりです。

 2016年度 件数:15件(個人7件、団体8件) 資料点数:1,772点

 2017年度 件数:22件(個人12件、団体10件) 資料点数:4,247点

 2018年度 件数:24件(個人15件、団体9件) 資料点数:2,835点

 物品としては図書装備用品や紙芝居用の舞台などが寄贈され、2017年度の資料点数には少数の地形図、CD、DVDが含まれています。

 この名古屋市図書館の方法は、上記(1)の福島県立図書館の「県民のくらし応援文庫」と似ていますけれど、金額の下限を決めていないこと、物品の寄贈をもお願いしていることが違っています。

 

(5)尼崎市立図書館(兵庫県)のブックオーナーズ制度

 多くの公立図書館が雑誌スポンサー制度を導入していることは、当ブログの「資金調達」でご紹介しました。それは、図書館が継続して受入れ中の雑誌の代金を、個人、企業、団体などに肩代わりしてもらう制度です。尼崎市立図書館のブックオーナーズ制度は、このやり方を絵本を中心にした児童書に適用するもので、2015年に始まりました。手順は次のとおりです。(同館のウェブサイト、20200109)

 ①図書館が子どもたちに提供したい絵本や物語のリスト(平均8冊ほどで1パック)を作成する。現在ウェブ上で14パックの書名が掲載されており、そのうちの12パックが絵本、2パックが物語で構成されている。

 ②寄贈する意思のある個人や企業、団体は、そのパックの中から選択する。

 ③図書館が納入業者に発注し、業者が納品する。

 ④納入業者は寄贈者に代金を請求し、寄贈者が支払う。

 これまでの寄贈者は、個人、NPO法人、企業、ロータリークラブなどで、このうち苅田建設工業という会社が792冊を寄贈しています。

 

(?)尾鷲(おわせ)市立図書館(三重県)の寿文庫

 この図書館への寄付は現金によりますので、今回の「本そのものの寄贈」の枠に収まらない例ではありますけれど、とても珍しいケースなので、ご紹介しておきます。珍しいケースと言いますのは、市民に対して、風習として定着していた厄落しや長寿の祝いを簡素化して、図書館の本の購入資金に回してほしいと呼びかけていることです。

 その結果、1966年に始まったものが55年間もつづいていて、「過去54年間で6,214人の方々から2,331万5,478円の寄付をいただき、12,298冊の図書を購入し、「寿文庫」として市民の皆さまに活用していただいております。」(同館のウェブサイト、20200121)

 半世紀以上つづいてきたこの図書館への本の寄贈方法は、尾鷲の新たな風習として定着しつつあると言っても差し支えないかもしれません。なお、寿文庫については、ウィキペディアの「尾鷲市立図書館」に要領よくまとめられています。