図書館ごくらく日記

図書館に関するいくつかのトピックス

図書館へ本を寄贈する人たち(1)全国の図書館への寄贈

 2017年12月2日、『日本経済新聞』の「ベストセラーの裏側」という欄に、西野亮廣(あきひろ)氏の『革命のファンファーレ:現代のお金と広告』という本についての記事が掲載されました。西野氏が全国の公立図書館にその本を1冊ずつ寄贈し、図書館での貸出が本の販売促進につながることを証明したという内容です。

 もう少し詳しい情報は「キンコン西野のブログ」(20171015)によって知ることができました。すなわち、

「僕は、

文藝春秋さんや新潮社さんとは考えが違って、図書館や「本の貸し出し」は、書籍の売り上げに圧倒的に貢献してくれていると考えています。

図書館で借りた本の感想をTwitterで呟く人もいれば、ブログで書評を書いて、最後にAmazonの購入ページを添付してくださる方もいます。

図書館の貸し出しは、書籍の売り上げに直結します。

しかし、このままだと「理想論だ!」「綺麗ごとだ!」と言われそうです。

 というわけで、

図書館の「貸し出し」が書籍の売り上げに貢献してくれていることを証明する為に、『革命のファンファーレ ~現代のお金と広告~』を全国5500館の図書館に自腹で寄贈することに決めました。」

 結果は、2017年12月の『日本経済新聞』の記事で「11万部のヒット」と書かれていたものが、ほぼ1年後の西野氏のブログ(20181114)では17万部となっており、氏の目論見どおりとなっています。私の住む京都市の図書館では、現在13館が同書を所蔵し、13冊の状態は、貸出中が6冊、利用可が4冊、取置中が2冊、搬送中が1冊となっています(20200116)。発行後2年たっても、あいかわらず読まれているのですね。

 このばあいの図書館への寄贈の特徴は、①著者個人による全国の公立図書館への寄贈であること、②販売促進をもくろんでいたこと、③図書館による貸出が書籍の売上げに貢献していることを事実で証明しようとしたこと、などです。

 

 次に、全国の公立図書館と大学図書館に本を寄贈している例をご紹介します。大同生命国際文化基金(公益財団法人)による翻訳出版事業です。

 この法人は、アジア各国の文学作品(小説、詩、随筆、戯曲、評論)を日本語に翻訳し、それらを30年以上にわたって日本の全公立図書館と大学図書館に寄贈しつづけています。同法人のウェブサイト(20200114)によりますと、この事業は「アジアの国々の今日の姿をそれぞれの国が生んだ文芸作品を通じて理解することを目的として」います。1986年から現在までに13か国の73点が「アジアの現代文芸」シリーズとして翻訳出版されました。

 中国や韓国の文学作品はよく日本語に翻訳出版されていますけれど、この2国以外の翻訳はなじみが薄いので、ありがたいことですね。

 この国際文化基金は、「ジャパニーズ・ミラーズ」シリーズと名づけた、日本の文芸作品・文献をアジア各国語へ翻訳し出版する事業も行っています。「日本の政治・経済・歴史・環境問題・人物伝等日本の辿ってきた道を参考に、あるいは戒めとして、アジア諸国の日本研究者、一般市民等へ情報を提供し、アジア諸国において「日本」という国のより一層の理解を進めることを意図したもの」ということです。

現在までに44点の作品を翻訳・出版して8か国の学校や図書館に寄贈しています。本の著者には、梅棹忠夫佐和隆光、保坂正康、美智子皇后本田宗一郎黒柳徹子芥川龍之介乙武洋匡中島敦太宰治池田晶子日野原重明宮沢賢治などの皆さんが含まれています。

 

 つづいて、大阪国際児童文学振興財団(一般財団法人)が主催し、日産自動車株式会社が協賛して、「日産童話と絵本のグランプリ」というコンテストの最優秀作品を全国の公立図書館に寄贈している例です。

 このコンテストも、1984年の始まりから現在まで、やはり30年以上にわたる息の長い事業です。その目的は、①才能ある{童話・絵本}作家の育成、②子どもたちに良書を届けること、とされています。

 大賞を受賞した作品は出版・販売されるほか、全国の公立図書館約3,500館と各地にある日産の事業所近くの幼稚園・保育園約800園にも寄贈されています。

 

 最後に、岡山県鏡野町にある山田養蜂場という会社による小学校への本の寄贈をご紹介します。この会社は、養蜂とはちみつを原点として、健康食品や化粧品、自然食品などの製造・販売をも手掛けている会社です。

 1999年から毎年、この会社は小学校へ本を寄贈する「みつばち文庫」というプロジェクトをつづけています。自然や環境、命の尊さなどについて考えるための本(年によって違いはありますが、平均10冊)をセットにして、寄贈先に届けるものです。

 寄贈先は新聞やウェブサイトで公募し、応募校から抽選で寄贈先を決定、2019年(第21回)は1セット10冊、1,825校に寄贈、という結果でした。

 なお、「これまでに延べ61,532校、684,962冊を寄贈して」きたということです。(同社のウェブサイト、20200115)

 

 企業はさまざまな方法で文化や芸術を支援するメセナ活動を行っています。ここでご紹介したのはその一部である図書館に関する活動の、ごく一部にすぎません。地域の中小企業や商店、病院などが身近な図書館や学校に本を寄贈する例は無数と言ってよいほどあり、図書館の資料を買うためのお金を寄付する例も同様です。

 この「図書館へ本を寄贈する人たち」では、図書館資料としての本そのものを寄贈する例に限定して、いくつかのパターンに分けてご紹介していく予定です。