図書館ごくらく日記

図書館に関するいくつかのトピックス

広域で使える図書館カード(外国の例)

 仕事や学業のために住いとは別の自治体に通う人にとって、職場や学校・大学の近くにある図書館を利用するほうが便利なばあいがあります。それについては、このブログの「広域利用」で書きました。

 また、このブログの「図書館利用カード」では、国内の「複数の自治体の図書館で使える共通カードの例」や1枚の利用カードで全国の図書館から本を借りられる国をご紹介しました。

 ここでは、外国の例をもう少しご紹介しようと思います。いずれも、カードの入手と貸出にかんするサービスが無料のばあいに限っています。

 なお、複数の行政区域で使える図書館カードを、英語ではlibrary cardの前にone, single, common, joint, unifiedなどを付けて表現しています。

 

国全体でひとり1枚の図書館カードを使える国

(1)アイルランド

 この共和国の面積は北海道より少し狭く、人口は約480万人です。

 2014年10月30日、環境・コミュニティ・地方政府を管轄する大臣が、「市民は1枚の会員カードで、アイルランドのすべての公共図書館の蔵書にアクセスできるようになる」と発表しました。

 そして、2017年5月29日の地方自治体管理局(LGMA)のニュースは、各自がもつ地元の図書館会員カードで、国内333の公共図書館から本やDVD、ゲームを借りることができ、その他のサービスもふつうに受けられる、と報じています。

 また、首都ダブリン市の図書館・文書館局のウェブサイトによりますと、「利用者はアイルランドのどの図書館で借りた資料でも、ダブリン市のどの図書館に返却してもよい」としています。

(2)韓国

 このブログの「図書館利用カード」をご覧ください。

(3)ノルウェー

 この王国の面積は日本とほぼ同じで、人口は500万人余りです。この国での1枚の図書館カードシステムは2005年に実施され始め、ノルウェーのほとんどの公共図書館大学図書館が参加しています。

 トロンハイム市図書館のウェブサイトによりますと、ノルウェーに住んでいる15歳以上の人は全国貸出カード(National Loan Card)を無料で手に入れて国内のほとんどの図書館で使うことができると説明しています。

(4)その他(準備・努力中)

(4-1)カザフスタン

 2018年8月15日の電子版『カザフスタンプラウダ』に掲載された「カザフスタンに単一図書館カードが導入される」という記事は、国立学術図書館の館長が「私たちは今、カザフスタン中で使える単一利用者カードを作るべく作業をすすめています」と語ったと報じています。

 カザフスタンでは、2013年に高等教育機関の単一利用者カードが実施され始めましたので、公共図書館を含めての実現も可能性がありそうですね。

(4-2)ニュージーランド

 2015年7月末に開かれたニュージーランド図書館・情報協会の「図書館の未来 2015」という会合の報告書にある「未来の図書館は…」という項目に、「私たちは、利用者がニュージーランド全土のどの図書館ででも使える1枚の図書館カードをもつことになるだろう」と書かれています。けれども、4年が経った今、組織的な動きはないように思われます。

 たとえば、クライストチャーチ市の図書館は、自館の利用者に次のように呼びかけています。「休日にはあなたの図書館カードを所持していてください。なぜなら、ニュージーランドのほとんどの公共図書館から貸出を受けられますから」と。

 一方、オークランドウェリントンの図書館のウェブサイトの案内には、市外の人は滞在期間に応じた会費を払って貸出を受けたり、無料で登録して1点の貸出ごとに2ドルを払ったりすると書かれています。

 

連邦国家の州などで共通の図書館カードを使える例

(1)アメリ

(1-1)ジョージア州

 アメリカ南部のジョージア州にはPINESというボーダーレスの図書館サービスシステムがあり、そのカードを持っている州民は、州内の300以上の公共図書館の1,100万点以上の資料を利用することができます。利用には、貸出、予約、情報検索などが含まれています。(Georgia Public Library Serviceのウェブサイト、201905)

(1-2)ペンシルベニア州

 ペンシルベニア州立図書館のウェブサイトには詳細な「州規模の図書館カードシステムのためのガイドライン」が掲載されています。それによりますと、州内の住民が図書館資料を利用する機会を増やすために、直接貸出プログラムを実施するとしています。また、州政府から補助金を受けている図書館はこのシステムに参加しなければなりません。方法は次のとおりです。

 ①図書館を利用する人は、地元の図書館で使えるカードを手に入れます。

 ②州内の地元以外の公共図書館を利用したい人は、「アクセス・ペンシルベニア」というステッカーを地元の図書館からもらって、自分のカードに貼ります。

 ③地元以外の図書館から借りた資料の返却方法については、貸し出した図書館が決めます。

(1-3)ミシガン州

 ミシガン州にはMILibraryCardというプログラムがあります。このプログラムの特徴は、公共図書館だけでなく大学図書館などの学術図書館も参加している点です。

 「参加館のためのMILibraryCardガイドライン」(Suburban Library Cooperativeのウェブサイト)によりますと、このプログラムの概略は次のとおりです。

 MILibraryCardは任意参加のプログラムです。

 参加できるのはミシガン州公共図書館と学術図書館です。

 利用者は地元の図書館で自分のカードにMILibraryCardステッカーを貼ってもらいます。このステッカーを作っているのはSuburban Library Cooperativeで、この組織は参加館のリストの維持にも責任をもっています。

 MILibraryCardを使って地元以外の図書館で借りられるのは、原則として印刷資料です。けれども、個々の図書館は自館の方針によってそれ以外の資料を貸し出すことができます。

 MILibraryCardを使って資料を借りた利用者は、原則として借りた図書館へ返却しなければなりません。

 2019年5月現在、参加館リストには99館が掲載されています。ただし、デトロイト公共図書館(22館)やモンロー郡図書館システム(16館)を1館と数えての話です。なお、6館が学術図書館です。

(1-4)テキサス州

 面積が日本の2倍近くあるテキサス州では、TexShareという州規模の図書館協力プログラムが実施されています。このプログラムを管理運営しているテキサス州図書館・文書館委員会のウェブサイトによりますと、プログラムに参加している図書館の利用者は、図書館の館種(公共・大学・専門など)、規模、所在地にかかわらず、他の参加館からもTexShareのサービスを受けることができます。プログラムの概略は次のとおりです。

 参加館はテキサス州内の公共図書館と学術図書館、約500館です。

 利用者は自分の地元の図書館にTexShareカードの発行を申し込んで手に入れ、それを持参すれば、他の参加館から資料を借り出すことができます。

 参加館はそれぞれの方針にしたがって貸し出す資料の種類、点数、貸出期間を決めています。

(1-5)アメリカのその他の州

 アラスカ、イリノイ、ハワイ、マサチューセッツミネソタなどの州でも、類似のプログラムを実施しています。

 

(2)オーストラリア

(2-1)ビクトリア州

 スウィフト図書館コンソーシアムのウェブサイトによりますと、「2015年7月いらい、あなたがビクトリア州のスウィフト図書館コンソーシアムに参加している図書館の会員であれば、あなたの図書館カードはSwift One Cardということになり、スウィフトコンソーシアム・ネットワークに参加しているどの公共図書館においても、資料を借りたり、予約したり、未払い料金を払ったりすることができます」ということです。

 このばあい、共通の図書館カードを発行するのではなく、あるいは目印用のステッカーを貼るのでもなく、個々の図書館が発行する利用カードが州内のどこでも通用する、という方式ですね。

 スウィフト図書館コンソーシアムは、ビクトリア州公共図書館学校図書館、職業専門学校(TAFE)図書館による協力ネットワークのことです。利用者は、150以上の参加館の合計300万点以上の中から資料を借りることができます。

 

(2-2)南オーストラリア州

 2014年、南オーストラリア図書館局は、州の地方自治体協会および68の議会と協力して、州規模の図書館カードを導入するプロジェクトを始めました。その結果、「One Cardのおかげで、南オーストラリア州の図書館利用者は、単一のカードでどの図書館でも利用でき、400万点以上の資料にアクセスできるようになりました。」(Libraries of SAというウェブサイト)

 州の住民は、One Card Networkの参加館の図書館カードを持っていれば、州内のどこの公共図書館からでも資料を借り、それをどこの図書館にでも返却できます。ということは、ビクトリア州と同じように、カード自体を統一しているわけではないのですね。

なお、貸出期間などの条件は図書館によって異なります。

 

(3)カナダ

(3-1)アルバータ州

 アルバータ州には、全館種で通用するTAL(The Alberta Library)カードと、公共図書館だけで通用するME図書館カードがあります。

A.  ME図書館カード

 このプログラムを実施しているのはアルバータ公共図書館ネットワークで、その貸出にかんするサービスの対象は、地元の図書館カードを持っている18歳以上の州民です。

地元以外の公共図書館から本を借りたい人は、ウェブ上でME Librariesに登録するだけで、地元の図書館カードを使ってアルバータ州のどの公共図書館からでも本を借りることができます。

 このネットワークの参加館は300以上、資料は合計1,000万点以上とのことです。

B.TALカード

 TALは州規模の図書館コンソーシアムで、1997年に発足しました。そこには、公共図書館、地域図書館システム、大学図書館、カレッジおよび工学研究所図書館、専門図書館が含まれています。資料の合計は3,000万点以上とのことです。

 出発が早く、いくつもの館種の図書館が参加しているからでしょうか、この枠内で他の図書館の資料を借りようとする利用者は、使いたいと思う図書館ごとに別のカードを登録しなければなりません。ただし、他の公共図書館を使うばあいは、上記AのME図書館カードで用が足せるわけです。

(3-2)ニューブランズウィック州

 ニューブランズウィック州公共図書館のネットワークであるニューブランズウィック公共図書館サービス(NBPLS)のウェブサイトによりますと、この組織は州の担当部署、5つの地域部署、52の公共図書館、11の公立学校図書館などで構成されています。

 この州の図書館システムは、蔵書や統計と同様に公共図書館が単一の図書館カード(single library card)をも共有して、資源共有を最大限にするようにデザインされています。

 州内に住んでいる人は地元の図書館でカードを手に入れ、それを60以上の州の公共図書館で使えます。使い方は、資料を借り、コンピュータを利用し、オンライン資源にアクセスすることなどで、借りた資料はどの図書館でも返却可能です。

(3-3)ブリティッシュコロンビア州

 ブリティッシュコロンビア州のウェブサイトにある「公共図書館」の項によりますと、この州に住んでいて地元の図書館カードを持っている人は、州内の他の公共図書館を訪れて無料のBC OneCardを手に入れることができます。

 利用者は、BC OneCardを入手した図書館から資料を借り出すことができ、返却はどの公共図書館でも可能です。

 BC OneCardは、それを入手した図書館でのみ使うことができ、また、図書館で借りられる資料や受けられるサービスの範囲は、それぞれの図書館によって異なります。

(3-4)その他

 カナダでは、ほかにサスカチュワン州公共図書館のみ)やノバスコシア州公共図書館大学図書館)でも類似のサービスを実施しています。

 

(4)ロシア

(4-1)タタルスタン共和国

タタルスタンの国立電子図書館ニュース(2017年2月3日)によりますと、

 「2017年、タタルスタン共和国で単一図書館カードの実施が始まりました。すべての市民は無料で新しい図書館カードを受けとる資格があります。新しいカードを申請するためには、パスポートを持って地方自治体の図書館または州立図書館へ行く必要があります。」

 「すでに共和国の図書館カードをもっている人は新しい単一図書館カードと取り換える必要があります」とのことです。

 

(5)その他(準備・努力中)

(5-1)ウェールズ(英国)

 2015年9月4日、「ウェールズの図書館(Welsh Libraries)」というウェブサイトに、「アクセスを改善し資金を節約するための全ウェールズ図書館カード計画」という記事が掲載されました。

 ウェールズ政府が、国内のどこの図書館でも使える全ウェールズ図書館カードは地方自治体の図書館関係財政を大幅に削減できると公表したというものです。また、ウェールズ中で使える単一図書館カードは、利用者が本を国内のどの図書館からでも借りられ、どの図書館へでも返却できることを意味するとしています。

 さらに、地方自治体は徐々にこの新しいシステムを採用し、はじめはウェールズ北部の6つの自治体が2015~16年に採用するだろうとしています。

(5-2)カタルーニャ州(スペイン)

 ヨーロッパ図書館・情報・ドキュメンテーション協会事務局(EBLIDA)のウェブサイト版ニュースで、2015年3月17日、スペインのカタルーニャ州政府の図書館に関連する動きが報じられました。内容は、文化省とバルセロナ地方議会が全カタルーニャの地域図書館を支援する合意文書に署名し、具体的には次の2項目を実現するというものです。

 ①2015年中に州内の公共図書館の目録の統一を図り、2016年の前半には稼働させること。

 ②カタルーニャ全体で通用する単一の図書館カードを導入し、利用者が最初にどこで登録しようとも、どの地方の図書館でもそれを使えるようにすること。

 なお、2015年時点では、160の地方図書館のうち、わずか11が人口5,000人以上の町、120が人口3,000人以下で、後者のような小さな自治体では図書館サービスを提供する法的な義務がありません。

(5-3)スコットランド(英国)

 2017年11月、国立国会図書館のカレントアウェアネスに「スコットランド政府は、1枚のカードで全公共図書館を利用できる“One Card”プロジェクトの試行事業を開始したと発表しています」という記事が掲載されました。

 2019年6月現在、スコットランド図書館・情報評議会のウェブサイトにある”One Card”という項目では、このパイロット計画が最終的に、スコットランドのすべての公共図書館に採用されることが望ましいとしています。