公立図書館は、近くに図書館(中央館・地域館・分館・図書室など)がない地域住民のために、特製の自動車などに本を積んで巡回し、貸出・返却・予約、調べもの相談(レファレンス・サービス)などのサービスをしています。
これを日本ではふつう移動図書館と呼んでいますが、自動車文庫と呼んでいる図書館もかなりあり、少数ですが自動車図書館、図書館バス、巡回文庫、動く図書館と呼んでいる図書館もあります。
また、小学校や幼稚園・保育園に団体貸出をするための図書館車のことを巡回文庫と名づけている例も散見されますが、ここでは個人への貸出をするばあいの図書館車だけを取り上げています。
全国的な傾向
全国の移動図書館車の台数は、文部科学省の社会教育調査の中の「図書館の自動車文庫の台数」(平成27年度=2015年度)で分かります。それによりますと、全国の486館が566台を保有していました。この486館は、全国3,331館の14.6%になります。
保有台数の多いのは、岩手県(63台)、北海道(56台)、鹿児島県(28台)、大阪府(25台)などで、図書館数が圧倒的に多い東京都は9台です。保有台数の多寡の理由は一概に言えません。各自治体の地理的条件、公共交通の発達具合い、地域館・分館の充実度、自治体の財政状態、住民の図書館にたいする意識、教育委員会や図書館の考え、などが影響するからです。
自治体当りの車の台数
移動図書館車をもつ自治体のほとんどすべてが、1台だけでサービスをしています。
2台を巡回させているのは、北海道(旭川市図書館)から九州の鹿児島県(鹿児島市立図書館・曽於市立図書館・南九州市立図書館)まで、いちおう全国に広がってはいますが、自治体数としては11市を確認できただけでした。
台数がいちばん多かったのは鳥取市立図書館の5台です。この市立図書館は中央図書館と2図書館、6図書室からなりますが、中央図書館が3台、2図書館が各1台を運行し、ステーション(停車場所)は34か所です。巡回頻度はおおむね月に2回、停車時間はほとんど30分、鳥取環境大学と鳥取大学へ行くのが珍しい点です。
次いで台数の多かったのは、岡山市立図書館の4台。この市立図書館は中央図書館と8図書館、1図書室とからなりますが、ステーションは90か所です。積載冊数は600冊が2台、1,500冊が1台、3,000冊が1台。
台数が3台だったのは、仙台市図書館(宮城県)、浜松市立図書館(静岡県)、田辺市立図書館(和歌山県)、高松市図書館(香川県)でした。それぞれの特徴的な面は次のとおりです。
仙台市図書館は、7館、10分室(市民センター内にあって蔵書13,000~21,000ほど)、せんだいメディアテークなどからなります。ここの特徴は、76ステーションの中に小学校が5校しか含まれていないことです。
浜松市立図書館は館数が多い(中央とその1分室、ほかに22館)のに、自動車文庫が67か所のステーションを月に1回、巡回しています。
田辺市立図書館(和歌山県)は3台の移動図書館車を走らせていて、それぞれを学校巡回用、一般ステーション巡回用、保育園・幼稚園巡回用と区別しています。1台の車に積める本の冊数が限られるわけですから、利用者層ごとに車を別にするのはgood ideaではないかと思います。
高松市図書館(香川県)の移動図書館車は、2010年4月から市外の直島町へもステーション2か所を設けてサービスをしています。
ステーション(駐車場所・巡回地点)
移動図書館車は、自治体内の小学校、幼稚園・保育園、公民館、公園、団地、集会所、福祉施設、神社など、利用者が集まりやすく駐車しやすい場所をステーションとしています。珍しいのは、先に挙げました大学のほかに、徳島市立図書館の移動図書館車は徳島大学の前に停まりますし、自衛隊の駐屯地・宿舎前に停まる例もいくつかあります。横浜市立図書館のステーションは21か所ですが、そのうちの17か所が公園です。
ステーションの数が多い図書館は次の通りでした。
名古屋市図書館(愛知県)=約120
大阪市立図書館=100以上
富山市立図書館=99
長野市立図書館=92
積載冊数
多くの移動図書館車は1,500~3,000冊の本を積むことができます。冊数がおよそ4,000冊だとしているのは、狭山市立図書館(埼玉県)と茨木市立図書館(大阪府)の車でした。逆に、北海道の町立・村立の図書館には、積載冊数が数百冊の車があります。
愛称
ほとんどの移動図書館車には愛称がつけられています。利用者として多い子どもを意識してのことでしょう、平かな3~4文字からなる感じのよい名称が多いようです。きちんと調べたわけではありませんが、「ひまわり号」や「あおぞら号」、「ぶっくん」などが多かったように思います。もちろん漢字を使った愛称もありまして、長岡市立図書館の車の愛称は「米百俵号」で、ほほえましいですね。
巡回頻度と停車時間
移動図書館車の巡回頻度は2週間ごとか1か月ごとが、ふつうです。
停車時間は30分から1時間前後ですが、名古屋市図書館では2時間停車予定のステーションがかなりあります。
巡回の中止
移動図書館車は、天候(大雨・大雪・台風など)や交通事情(道路工事)などを理由に運行を中止するばあいがあります。
珍しい試み
最後に、変わったサービスの例をいくつかご紹介します。下記の③以外の情報源はそれぞれの図書館のウェブサイト、日付は201901~02です。
①むかわ町立穂別図書館(北海道)
「町立穂別図書館では、歩いて来館出来ない地域の子どもたちに、学校や保育所を通して、移動図書館による本の貸し出しを行っています。また、事情に応じて、病院・高齢者施設や個人宅にも出向いております。移動図書館の対象は全町です。ご希望がございましたら、お気軽にご相談下さい。」
これは無料の宅配サービスを兼ねているのですね。
「出前図書館とは、市内企業の休憩時間や、団体の会合・セミナー・講演会などに移動図書館車が出向き、そこで利用カードの作成や本の貸出を行うサービスです。
企業の事業内容や講演会のテーマに関連した本はもちろんのこと、人気のビジネス書や話題の人・物に関する本、歴史、旅行、趣味の本、女性社員のための料理、子育ての本などご希望のジャンルの本をのせて無料で出前します。」
「トカラ列島の、7つの有人離島を持つ十島村(鹿児島県)にはセブンアイランド移動図書館がある。島を巡航するフェリーに図書を積み込み、島から島へと本を受け渡していくものである。木箱に積み込まれた本は1か月から2か月ごとに島々を巡回していく。」(カレントアウェアネスE, no. 282, 20150604, 岡本真・ふじたまさえ)
④沖縄県立図書館の空とぶ図書館
沖縄県立図書館は「主に離島や北部地域の住民の皆様に読書機会を提供するため、町村教育委員会と連携し、空とぶ図書館(移動図書館)を開催しています。また、移動図書館の開催に合わせ、読み聞かせ会・読み聞かせスキルアップ講座などを開催し、読書活動の啓発を行っています。」
また、「県立図書館は空路・海路・陸路を駆使して移動図書館を開催しています。」
講談社の「おはなし訪問隊」
講談社は1999年7月、創業90周年記念事業として「おはなし訪問隊」の活動を始めました。これは、2台の車にそれぞれ550冊ほどの絵本を積み込んで全国を巡回し、学校、幼稚園・保育園、公立図書館、書店などを訪れるものです。
1か所を訪問するのは1台の車で、次の2つを行います。
①訪問隊員が室内で紙芝居と絵本の読み聞かせ(30分)
②子どもが車に積んである絵本を自由に楽しむこと(30分)
この「おはなし訪問隊」のウェブサイトではいつも「訪問希望」を募集しています。