図書館ごくらく日記

図書館に関するいくつかのトピックス

デジタルアーカイブ

 日本には、史学の専門家でさえ見たことのない古い図書・文書・記録・絵図のたぐいがたくさんあります。それらはおもに大学図書館、公立の図書館や文書館、博物館、歴史館などに眠っています。中には旧家が個人的に保存してきたものもあります。

 この宝の山をデジタル化して(外国を含めた)誰でもが読めるようにすれば、日本史学にとってはもちろん、日本の古い時代の出来事やありように興味をもっている一般市民にも大いに役立つのは言うまでもないでしょう。

 そのような試みのうち、ここでは公立図書館が主導している例をご紹介します。

 なお、日本のデジタルアーカイブについては、アンドラの「Digital Archives」というサイトが、公立図書館に限らない最も網羅的と思われるリストを作成・更新しつづけていて、それぞれにアクセスできるようにしています。

 

名称

公開されているデジタル化資料群には、データベースを運営する機関によってさまざまな名称がつけられています。公立図書館で最も多いのはデジタルアーカイブで、ほかにデジタルライブラリー、デジタル図書館、電子図書館(システム)、・デジタルコレクションなどがあります。

 

内容

 今のところ、公立図書館のデジタルアーカイブに含まれるおもなコンテンツは、古書・古文書・古地図・絵図・絵画(浮世絵)・絵はがき・書簡・写真などです。中には比較的新しい図書や絵本、動画(映像)が含まれているばいもあります。

 公立図書館が自治体の地域関連資料(郷土資料)を収集することは、図書館運営上の重要な柱のひとつです。その努力の結晶である所蔵資料の古い文献や地図などの多くは、それぞれの機関で貴重資料扱いになっています。ですから、それらのデジタル化と公開には、貴重資料そのものを利用する際の手続きの煩雑さと資料の損傷を避けるという意味合いもあるのですね。

 

都道府県レベルのデジタルアーカイブ

 すべての都道府県立図書館がデジタルアーカイブを運営・公開しています。以下に、その中の特徴的なものをご紹介します。「」内の情報は2018年12月時点の各ウェブサイトによっています。

 

(1)北方資料デジタル・ライブラリー(北海道立図書館)

参加館は、北海道立図書館のほか、道立文書館、道立埋蔵文化センター、3つの市町立図書館(旭川市北見市立・滝上町)ですが、ほかに北海道内4市(札幌・帯広・函館・小樽)の図書館のデジタルライブラリーへのリンクが張られています。

このデジタルアーカイブには、市立図書館のコンテンツを同時に検索して閲覧できるという特徴があります。

 

(2)ふじのくにアーカイブ静岡県立図書館+4市立図書館)

「当館のデジタルライブラリーは、当館の資料だけでなく、県内市町立図書館が所蔵するデジタル化資料の一部を閲覧できるようになりました。

 現在の参加図書館は富士市立図書館、静岡市立図書館、袋井市立図書館、磐田市立図書館の全4館で、公開点数は全部で597タイトルになります。今後は参加館や公開点数も増えていく予定です。

 今回のリニューアルにより、当館のデジタルライブラリーは県内図書館の合同デジタルアーカイブの性格を持つことになりましたので、名称も「静岡県立図書館デジタルライブラリー ふじのくにアーカイブ」となりました。」

 特徴は北海道と同じですが、こちらはより積極的に「県内図書館の合同デジタルアーカイブの性格を持つ」としています。

 

(3)信州デジくら(県立長野図書館・県立歴史館など)

 「県立歴史館、県立長野図書館、信濃美術館・東山魁夷館が所蔵する作品、歴史的な資料のほか、地域の祭りなど今を記録した動画などがあります。この他、県民の皆様から寄せられたお住まいの地域の魅力ある文化、次世代に伝えたい画像や動画も順次公開していきます。」

 「長野大学は、長野県と連携し、{略}長野県デジタルアーカイブ推進事業を協働して進めています。」(長野大学のウェブサイト)

 このデジタルアーカイブの特徴は大学や県民個人が協力している点です。

 

(4)信州地域資料アーカイブNPO長野県図書館等協働機構)

 NPO長野県図書館等協働機構は、「長野県図書館協会を母体として平成25年2月に設立され、事業に賛同する学識者、専門家、市民等が参加して、県立図書館はじめ、市町村図書館、県立歴史館、文書館、博物館等と連携、協働して事業を推進しています。」

 「貴重な地域史料をデジタル化し公開するものです。高精細画像でご覧いただけるとともに、1点ずつ現代訳、翻刻・読み下し、解説が付いていますので、誰でも読むことができます。また、キーワード検索もできます。」

  原資料の所蔵先は、県立長野図書館のほか7市の図書館、県や市の博物館、歴史館、文書館、資料館のほかに、毎日新聞社、個人などです。

 このデジタルアーカイブの特徴は、個人を含む県を挙げての事業である点、一部の資料に現代語訳がついている点などです。

 

(5)愛知県関係地域資料ポータル(愛知県図書館)

 愛知県図書館の貴重和本・絵図の世界・絵はがきコレクションのほか、以下の機関にリンクが張られています。

 県内の公共図書館=名古屋・安城・岡崎・豊橋・大府の各市ほか1件。

 県内の大学図書館=愛知県立・名古屋・愛知教育・愛知学院椙山女学園・南山・藤田保健衛生の各大学。

 その他=県内の博物館・美術館・県の行政機関。

 このデジタルアーカイブの特徴は、名称に「ポータル」とあるように、県内の公共図書館大学図書館、行政機関のデジタル資料のポータルサイトとなっている点です。

 

(6)岡山デジタル大百科の郷土情報ネットワーク(岡山県立図書館)

 「郷土岡山に関するデジタル情報(ビデオ、写真、音声、Webページなど)をインターネットへ公開しています。

県立図書館が所蔵するデジタル情報だけでなく、さまざまな行政機関、大学などと連携しながら、コンテンツを充実させています。

また、県民参加型の「郷土情報募集事業」を通して、岡山の観光スポットや岡山の歴史を紹介した映像・ホームページなど、数多くのデジタル情報を提供しています。」

このデジタルアーカイブの特徴は、行政機関や大学図書館、県民が協力している点です。

 

(7)とくしま電子図書館徳島県立図書館

「{徳島県内の}各機関が作成公開しているデジタルデータのポータルサイト」で、郷土関係の音源・動画(映像)を含んでいます。和古書には、県立図書館のほか2大学附属図書館(徳島・鳴門教育)・2市立図書館(阿波・美馬)の所蔵するものが含まれています。

このデジタルアーカイブの特徴は、愛知県図書館と同じくポータルサイトとなっている点です。

 

(8)沖縄情報統合検索システム(沖縄県立図書館)

沖縄県立図書館のほか県立公文書館、歴史博物館、琉球大学附属図書館を中心に、県外の3大学の図書館等(大阪経済大学の日本経済史研究所、鹿児島大学附属図書館、神戸女子大学古典芸能研究センター)の沖縄関連のデジタル化情報を集めています。

 このシステムの特徴は、県外の大学等からの情報を含んでいる点、全体を一括または個別に検索できる点などです。

 

市立図書館等のデジタルアーカイブ

(1)光丘(こうきゅう)文庫デジタルアーカイブ山形県酒田市立図書館)

 「当文庫は、山形県指定文化財「両羽博物図譜」、酒田市指定文化財「松平武右衛門叢書」などのほか、酒田の歴史資料と江戸時代の国文学資料、酒田に縁のある文化人等による寄贈図書など、21万点を超える資料を所蔵しており、中世から明治期に至るまで酒田がいかに経済的発展を遂げたかを証明する酒田の文化的遺産です。」

 

(2)デジタル資料コーナー(東京都練馬区立図書館)

和装本練馬区貫井図書館)と昆虫資料(練馬区立稲荷山図書館)などがあります。

公共図書館では珍しく昆虫コーナーがあり、昆虫資料は約6,000点、昆虫標本は約3,200点所蔵しています。この度、当館が所蔵しています貴重な資料をデジタル化しました。」

 

(3)知多市の古文書(愛知県知多市立中央図書館)

 「知多市立中央図書館では知多市内(旧知多郡松原村)で代々庄屋をしておられた小島家に伝わる古文書を、現当主様のご厚意でお借りしデジタル化して発信しております。保管されている古文書はほぼ200年前まで遡って当時の記録をたどることができます。この時代は幕藩体制の崩壊、大飢饉、さらには諸外国から開国を迫られる渦中で数々の出来事や事件が起こっています。」

 

(4)越国文庫コレクション(福井県福井市立図書館)

 「福井市立図書館は、松平家より寄贈された多くの貴重書を、特別コレクション「越國文庫(えっこくぶんこ)」として所蔵しています。原資料さながらに再現された画像を、時空を超えてお楽しみください。」

 なお、福井市立郷土歴史博物館も別にデジタルアーカイブを運営・公開しています。

 

(5)はりまふるさとアーカイブ:播磨圏域中枢都市圏関連事業(兵庫県姫路市立図書館)

 姫路市・太子町・宍粟市(しそうし)・市川町・神河町たつの市赤穂市の古資料のアーカイブで、4市3町の協力という点で特徴的です。

 

(6)『往来本』デジタルアーカイブ広島県三次(みよし)市立図書館)

「往来本とは、一般には「往来物」と呼ばれ平安後期から明治初期にかけて寺子屋等で用いられた教科書の総称です。」

寺子屋などの教科書の電子資料という点がとても珍しいですね。原文のほかに、読みやすくするために漢字を平仮名にした「釈文」(しゃくもん)もあります。