図書館ごくらく日記

図書館に関するいくつかのトピックス

ベストセラー本の寄贈依頼

 日本書籍出版協会の文芸書小委員会は201611月、全国の公共図書館長あてに「公共図書館での文芸書の取り扱いについてのお願い」という文書を送りました。その文書の中に次のようなくだりがあります。

 

 「このように著作者、出版社、書店を支える構造について理解が広がっている一方で、見うけられるのは、資料費不足等を理由にした、リクエスト上位の図書の過度の購入や寄贈を呼びかける図書館の存在です。」

「一部の文芸書の過度の購入や寄贈本により貸出を増やそうという動きには、出版に携わる者の間にも懸念がひろがっています。書店・出版社ばかりでなく、著作者も同様、本の販売によって生計を成り立たせています。もはや執筆活動が成り立たないと嘆く声が著作者の間であがっているのも事実です。」

 「各公共図書館を運営する皆さまにおかれましては、出版界からの声と住民の要望とのバランスに配慮され、文芸書・文庫本の購入や寄贈に、格段のご配慮をいただき、出版文化の継続発展にご助力いただきますようお願い申し上げます。」

 

 私は2016年春から17年春にかけて、全国の公立図書館の実情をウェブサイトで調べました。その項目のひとつが「ベストセラー本の寄贈依頼」でした。以下は、その結果のあらましです。

 

 ベストセラー本や予約の多い本の寄贈依頼をしていたのは、全国で61自治体の図書館でした。地域別に見ますと、北海道・東北=1、北関東=9南関東13、北陸・東海=10、近畿=15、中国・四国・九州=13です。

 各図書館のウェブサイトをくまなく調べはしましたが、図書館がベストセラー本の現物寄付をウェブサイト上で呼びかけるとは限りませんし、私の見落としもあるかもしれません。したがって、全国で61自治体の図書館というのは最低限の数字だと思っていただいたほうがよいでしょう。

 

 寄贈のお願いをするとき、具体的にタイトルと著者名、出版社名などをリスト化するケースが圧倒的に多いのですが、たんに「人気のある本」「予約や貸出の多い本」という表現にとどめているケースもわずかながらありました。

 寄贈をお願いする本のリストには、10~20点を挙げるばあいが多く、たまに30点を挙げている図書館があります。

 

 図書館が寄贈依頼をしたタイトルがいちばん多かった著者は、東野圭吾氏と湊かなえ氏でともに6タイトル、ついで宮部みゆき氏の4タイトルでした。いちばん依頼館数が多かったタイトルは宮下奈都氏の『羊と鋼の森』(文藝春秋)で28館、ついで東野圭吾氏の『人魚の眠る家』(幻冬舎22館、宮部みゆき氏の『希望荘』(小学館)がつづきました。

 ノンフィクションで依頼館数が多かったタイトルは、佐藤愛子氏『九十歳。何がめでたい』(小学館)の9館、小保方晴子氏『あの日』(講談社)の6館、岸見一郎氏『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社)の5館などでした。

 

 初めにご紹介した日本書籍出版協会のお願い文書は、「一部の文芸書の過度の購入や寄贈本」や「文芸書・文庫本の購入や寄贈」を自粛してほしいという趣旨ですが、公立図書館が住民にお願いしている寄贈本のリストには、多くの「文芸書以外の本」が含まれています。

 

 たとえば、松山市立図書館(愛媛県)は、郷土資料のほかに予約の集中している図書の寄贈をウェブサイト上で依頼していましたが、この図書館の寄贈呼びかけリストの上位10点には、フィクションが1点しか含まれていませんでした。(201674日現在)

 

 図書館の寄贈依頼に対して、はたしてどれほどの住民が協力しているのだろうと興味をもちながら、その調査を実行できていません。