自治体財政の逼迫から、最近の公立図書館は資金調達や経費節減にさまざまな工夫をこらしています。
雑誌スポンサー制度
雑誌スポンサー制度とは、図書館が購入している雑誌の年間購入費を地域の企業・団体・商店・学校法人・個人などが肩代わりし、その見返りに図書館が費用負担者の広告を雑誌の表紙などに貼りつけるものです。
2016年~17年の公立図書館Webサイト調査で雑誌スポンサー制度の実施を確認できた自治体は168にのぼりました。実施数が多かったのは、近畿34、九州29、東海25などで、ほぼ全国に広がっています。
契約スポンサー(企業や団体)の多い図書館は、萩市立図書館(山口県)59者、米原市立図書館(滋賀県)57者、宗像市民図書館(福岡県)48者などです。
契約雑誌数の多いスポンサーは、愛知病院が川越市立図書館(埼玉県)と27誌、中部学院大学が各務原(かかみがはら)市立図書館(岐阜県)と16誌、大和物産(株)が五條市立図書館(奈良県)と15誌などです。
個人がスポンサーに応募できる市区町村は23ありました。
スポンサーの費用負担は、ほとんどのばあい雑誌の購入代金ですが、中には一定額を負担する「定額制」の例があります。たとえば、つくば市立(茨城県)・川崎市立(神奈川県)・桑名市立(三重県)は1誌につき年間6,000円。また、柏原市立(大阪府)・川西市立(兵庫県)・太田市立(島根県)は1誌につき年額10,000円。呉市立(広島県)は1誌につき年額12,000円、などです。
ユニークな定額料金としては、次の2例がありました。
基山(きやま)町立図書館(佐賀県)は、雑誌に貼る広告のサイズを大中小に3区分して、料金年額をそれぞれ10万円、7万5千円、5万円としています。
長与町図書館(長崎県)も広告掲載料の月額をABCの3種類とし、A=4,800円、B=4,200円、C=3,600円としていました。
なお、雑誌スポンサー制度を「雑誌オーナー制度」とか「雑誌サポーター制度」と表現している図書館も数館あります。
寄付金とふるさと納税
鎌倉市図書館(神奈川県)は、2011年度に100周年を迎えたことを記念して図書館振興基金を設置しました。2012年度から2017年度まで一貫して寄付をつづけているのは「図書館とともだち・鎌倉」というボランティアの会です。
恵那市(岐阜県)は寄付金を募集しています。「恵那市では、図書資料の充実及び図書館運営に必要な資金に充てるために『恵那市図書館基金』を設置し、お預かりした大切な寄付を、蔵書の充実や運営経費の一部に役立てています。」
これまで、現在の建物建設費を寄付した伊藤青少年育成奨学会が約10億円のほか、ライオンズクラブ、個人、市内の銀行と信金、図書納入組合などが寄付をしています。
西宮市立図書館(兵庫県)は「図書館振興基金」を昭和60年から開始し、蔵書の充実や施設・機器などの整備に活用させており、2016年度の寄付金は55件、およそ180万円でした。図書館では、その資金で郷土資料・DVD資料・CD架・ブックトラック・拡大読書器などを購入したとのことです。
防府(ほうふ)市立防府図書館(山口県)のウェブサイトによりますと、2006年9月に匿名で200万円の寄付があり、その年の11月1日に新館が開館しますと、翌2日に「新図書館開館を記念し、市内の篤志家より、図書購入費として金5,000万円の寄附を」受けたのでした。
2015年度からふるさと納税でも使い道を指定できるようになったため、図書館の寄付金募集の案内に、しばしば「ふるさと納税」や「ふるさと寄付金」が登場するようになっています。
雑誌スポンサー制度は図書館の資料そのものに寄付者の広告を貼りつけるものでした。ここでいう広告は、図書館の建物や館内の物品、その他に寄付者の名称を掲載するものです。
(1)図書館のウェブサイトへのバナー広告
最近の自治体のウェブサイトには業者等のバナー広告が載るようになってきています。その流れでしょうか、図書館のウェブサイトにもバナー広告が目立ちます。
ただし、私が調べていた2016~17年の段階では、1図書館当たりの広告掲載数は多くなく、いちばん多かった福岡市総合図書館で10社でした。そのほかで多いのは、大田区立図書館(東京都)と広島県立図書館の5件、藤沢市図書館(神奈川県)の4件でした。
契約金額は、1枠当たり月額3,500円から15,000円まで、図書館によってかなり幅があります。
(2)物品への広告
次のような例が確認できました。
中野区立図書館(東京都)=かよい袋、図書館カレンダー、ブックカバー、本のしおり、その他、寄贈者からの企画提案によるもの。
横浜市立図書館(神奈川県)=紙芝居袋、全15館の入口に広告入りの玄関マットを敷設。さらに2010年、中央図書館では、「正面入口脇に大型周辺案内地図を設置しました。設置に係る費用はすべて広告代理店が負担し、地図に掲載する広告でその費用を賄っています。」
そのほか、これまでにパンフレットラック、貸出票の感熱紙、紙芝居用貸出袋、図書貸出用手提げ袋、図書館の年間カレンダーの裏などに広告を掲載したことがあるそうです。
吹田市立図書館(大阪府)=ブックスタート絵本配布用布袋、貸出レシート。
(3)図書館内の壁面ボードへの広告
愛知県の東浦町中央図書館(愛知県)=壁面ポスター広告。
「図書館の壁面にA1サイズのボードを用意しましたので、事業PRにご利用ください!」場所は、「1階おはなしコーナー付近の壁の指定枠」、掲載料は「1枠 2,500円/月(税別)」、期間は「毎月1日から1か月単位で希望する月数(最長12か月まで)」、サイズはA1以内で募集は3枠まで。
秋田市立図書館の総称「ほくとライブラリー」は、2015年4月1日から市立図書館5館の愛称となったもの。ネーミングライツ(命名権)によるパートナーは、株式会社北都銀行です。
泉佐野市立中央図書館(大阪府)の愛称「レイクアルスタープラザ・カワサキ中央図書館」は、2014年4月1日からで、パートナーは(株)カワサキ、契約金額は年に40万円、契約期間は5年間です。
資料の寄贈依頼
ほとんどの公立図書館がウェブサイトで寄贈を呼びかけているのは、郷土資料とか地域資料と言われている、その自治体や周辺地域に関する本・雑誌・文書のたぐいです。
ベストセラーとなっている新刊の小説などの寄贈をお願いしている公立図書館もたくさんありますが、この件については、いずれ当ブログで項を設けて触れる予定です。
珍しいのは、次のような例です。
横浜市立図書館(神奈川県)では、図書を寄贈してくれた企業や団体を、希望に応じて顕彰しています。条件は、新品の図書を18冊以上(2万円以上)寄贈、または例年寄贈ということです。
同館のウェブサイトの寄贈顕彰のページには、寄贈者である企業名・大学名とともに、寄贈冊数、主題(児童書、心理学専門書など)、贈呈式や展示の様子などの写真が掲載されています。
府中みくまり病院を経営する社会福祉法人広島厚生事業協会は、府中町立図書館(広島県)に対して2008年度から健康・医療関係図書の寄贈をつづけています。2015年度分は約30万円相当でした。
八幡浜市の保内図書館(愛媛県)は、2012年以来、外資系企業のオレンジベイフーズから毎年資金提供を受け、年に50冊前後の図書を購入しています。おもに外国語の本や国際理解に資する内容の本です。
指宿(いぶすき)市の指宿図書館(鹿児島県)では、読み終わった雑誌を市民から献本してもらう「雑誌の里親制度」を実施しています。
不要資料と古書の販売
要らなくなった本や雑誌を無料で住民に持ち帰ってもらったり、安い値段で販売する公立図書館も少なくありません。また、住民の古書を再利用する試みも公立図書館を舞台にして行われています。
以下には、資金調達を目的としない例が多く含まれています。
草加(そうか)市立中央図書館(埼玉県)では、「古くなったり傷んだりした本や寄贈などで重複する本を再利用するため」、毎年、古本市を開催しています。2018年の古本市では約1万冊を無料配布しました。
「会場には早朝から多くの方が訪れ、入場整理券を配布する午前9時には長蛇の列が出来るほどの人気」で、「入場整理券の順番に70名ずつ、25分毎の入れ替え制で行われ、1人30冊まで持ち帰ることが出来ます。」「この日、8回の入れ替えが行われた後、午後1時30分からは入場自由に。約800人が来場し、午後3時に終了」したとのことです。
相模原市立図書館(神奈川県)では、「不要となった本を皆さんに持ち寄っていただき、新たに読みたいと思う方々へつないでいきます。本を持ってきてくださること、本を探しにきてくださることが、図書館へ足を向ける機会になればと願っています。本は無料でお持ち帰りになれますが、図書充実にご賛同いただける方には寄付をお願いしています。お預かりした寄付金は相模原市に寄贈いたします。」
本を提供した人(事前の10日間ほどのあいだに図書館へ持参する)は優先入場券(一般の人より30分早く入場できる)をもらえるようです。
沼田市立図書館(群馬県)の古本市のばあいは、2018年1月の3日間、「図書館で廃棄となった資料2,630冊を再活用図書として、利用者から提供していただいたリサイクル本と合わせて希望者へ無料配布を行いました。」本を提供した人は57人、冊数は1,976冊でした。古本市の期間中の来場者は385人、配布数は2,893冊でした。
では、古書を販売するときの値段はどうなっているでしょうか?
根室市図書館(北海道)の古本市は今年の6月で46回目になりますが、「市民から集めた古本(一般書・児童書・マンガ・雑誌)を、定価の10分の1の価格(雑誌は10円)で提供」する予定です。
和光市図書館(埼玉県)の2017年度の古本市では、1冊50円で古書を販売し、その売上げは大船渡(おおふなと)市立図書館への寄付と和光市図書館での郷土資料の購入費に充てられました。
座間市立図書館(神奈川県)の2018年度の古本市では、1冊10円で古書を販売しました。こちらは座間図書館ボランティア友の会が主催、同館の共催ということになっています。
ちょっと変わった例は、泉佐野市立図書館(レイクアルスタープラザ・カワサキ中央図書館)(大阪府)の古本交換市です。あらかじめ「ご自宅で読み終え不要になった本を、図書館へお持ち下さい。冊数分の交換券をお渡しします」ということで、提供したのと同じ冊数を持ち帰ってもよいという「交換」方式です。
物品(グッズ)の販売
日本の公立図書館の(オリジナル)グッズの販売はあまり盛んではありません。イベントの参加者やクイズの正解者に無料で配るばあいもあります。
ウェブサイトの調査で確認できたのは、以下の通りです。
紫波(しわ)町図書館(岩手県)=オリジナル書皮(ブックカバー)(開館記念)。
市川市中央図書館(千葉県)=エコバッグとクリアファイル(開館20周年記念)。
小平市立図書館(東京都)=トートバッグとクリアフォルダー。
名古屋市図書館(愛知県)の志段味(しだみ)図書館=7種類の「歴史の里しだみ古墳群オリジナルグッズ」。
大阪府立中之島図書館=2階にライブラリーショップがあり、絵葉書、ブックカバーなど定番ともいえる商品のほかに、期間限定のグッズを販売。
玉野市立図書館(岡山県)=エコバッグ、ハンカチ、クリアファイル、イラストポストカードなど。
萩市立萩図書館(山口県)=カウンターでトートバッグやクリアファイルを販売。
今治(いまばり)市立中央図書館(愛媛県)=総合カウンター前にある「ぶっくんのおみせ」で、絵本に登場するキャラクターのぬいぐるみやフィルムコートを販売。
刊行物の販売
自治体はその歴史に関する資料を出版するのが常ですが、市史・町史・村史などを含む郷土資料を図書館で販売するケースが多くみられます。これらの資料は図書館が執筆・作成にたずさわるとは限りませんので、図書館の資金調達ということはできません。
一方、自治体の住民が創作した作品を図書館が主体となって刊行する文芸誌などは、数は多くないものの、各地にみられます。二、三をご紹介しますと、
秦野(はだの)市立図書館(神奈川県)=『郷土文学叢書』
小松市立図書館(石川県)=『小松文芸』(雑誌)
鳥取県立図書館=『郷土出身文学者シリーズ』
クラウドファンディングとは、インターネットを通じて資金調達を行うことです。日本の図書館では大学図書館の実施例が多く、公立図書館の実施例はまだ数件にとどまります。
たとえば、三条市立図書館栄分館(新潟県)は、2014年11月に「しかけ絵本」の蔵書数日本一をめざしてクラウドファンディングを立ち上げました。その結果目標額50万円に対して23人から約60万円の支援を受けてプロジェクトが成立しました。
図書館のない島だった海士(あま)町(島根県)は、2007年に「島の学校(保育園~高校)を中心に地区公民館や港など人が集まる既存の公共施設を図書分館と位置づけ整備し、それらをネットワーク化することで、島全体を一つの「図書館」とする構想」を具体化し始めました。
その中核となる海士町中央図書館は、2013年10月、図書館の職員が提案した「あま図書館応援プロジェクト」の一環としてクラウドファンディングを実施しました。その結果、「最終的に93人(うち78人は県外者)から124万円が集まり、300冊以上もの本が寄贈されました。」
長崎市立図書館(長崎県)は2017年11月、開館10周年記念事業を成功させるためにクラウドファンディングを実施しました。その結果、目標額50万円に対して、120人の支援者から76万円が集まり、プロジェクトが成立しました。
指宿(いぶすき)市立図書館(鹿児島県)を運営するNPO法人「そらまめの会」は、2017年にクラウドファンディングを実施しました。750万円という大きな目標金額に対して、487人からおよそ1,180万円の支援を得て、このプロジェクトは成立しました。
大きな目標金額の内訳は、「走るブックカフェ」用の自動車購入・改修費400万円、書籍購入費など350万円です。