1963年に日本図書館協会が出版した『中小都市における公共図書館の運営』という調査報告書に、次のようなくだりがあります。
「図書は2冊以上貸したい。本が少いから1冊ということをよくきくが、なかなか図書館へ来られない人が多いことを考えて、2冊までは貸すべきである。」
それから7年後の1970年に同じ日本図書館協会が出版した『市民の図書館』というマニュアル的な本では、貸出冊数についての記述が一変しています。
「一回の貸出冊数制限はないほうがよい。無制限にしてもだいたい平均3~5冊、多くても8冊くらいに落ちつく。」(引用は増補版から)
また、1989年に日本図書館協会が出版した『公立図書館の任務と目標:解説』では、「一人に貸出す冊数は、各人が貸出期間内に読み得る範囲で借りればよいので、制限を設ける必要はない」としています。ただ、この書の改訂版(2004年発行)では、「制限を設ける必要はない」という文言が削られています。
上記の3書は日本の公立図書館運営のバイブル的なもので、いずれも貸出冊数は多い方がよいという姿勢で共通しています。
私は、2016年から17年にかけて、全国の公立図書館のウェブサイトをつぶさに見てゆき、公立図書館の実態をつかもうとしました。そのひとつが個人への貸出冊数の限度です。その結果、次のようなことがわかりました。
①全国的に貸出冊数は10冊(10点)前後が圧倒的に多い。
②貸出冊数無制限は、少なくとも95の自治体の図書館で行われている。その割合が高いのは、滋賀県30.0%、栃木県26.9%、岡山県17.9%、北海道14.4%、茨城県13.3%、千葉県10.9%(自治体数には県立を含む)。
③貸出冊数の限度が極端に低いのは、ごく小規模な自治体の図書館(図書室)に多い。
④冊数・点数にカウントするものとしては、図書(本)、雑誌、紙芝居の組合せが最も多い。図書・雑誌の貸出冊数とCDやDVDなどの貸出点数を別勘定とする図書館もかなりある。
⑤複製絵画の貸出はほとんどすべての図書館で1点または2点を限度とし、期間は1か月が多い。
ついでに、珍しい例をいくつか挙げておきましょう。
県立図書館は概して貸出冊数が多くありませんが、長崎県立長崎図書館は50冊まで貸し出しています(期間22日間)。
栃木県の那須町図書館では、5名以上の家族やグループに1か月間まとめて本を貸し出しています。期限をあまり気にしないでゆっくり読めるメリットがありますね。
長野県の千曲市立図書館は、「20冊まで借りられる「貸し出し2倍DAY」を、春休み・ゴールデンウィーク・夏休み・秋の読書週間などに、実施」しています。通常は10冊です。
貸出冊数を年齢で区別する図書館があります。和歌山県の串本町図書館の貸出冊数は、大人5冊、中高生3冊、小学生以下2冊、宮崎県の西都市立図書館では、19歳未満が1人10冊以内、19歳以上は1人7冊以内、鹿児島県の徳之島町立図書館では、中学生以上が無制限、小学生以下は15冊まで、などです。
新着図書の貸出冊数をその他の本より少なくしているのは、静岡県の牧之原市立図書館や島根県の飯南町(いいなんちょう)立図書館などです。
そのほか、参考図書(調べ物をするための本で通常は館内利用に限定)を貸し出す図書館もあります。東京都の小金井市立図書館(一夜貸し)、新潟県の五泉市立図書館(一夜貸し)、滋賀県の東近江市立図書館(冊数無制限、1週間)と日野町立図書館(3週間)、大阪府の富田林市立図書館(3冊まで、1週間)などです。
試しに外国の大都市にある図書館の貸出冊数(点数)をネットで調べてみますと、公共図書館が普及している国では、だいたい日本より多いことがわかりました。アメリカでは50点が多いように思われます。そのほか、ロンドン50、トロント50、オスロ20、ストックホルム50、パリ20、ベルリン50、キャンベラ50、ウェリントン無制限などとなっています。